君は数日前のことが思い出せなくなった





「あれ、名前ちゃん知らなない?」

「俺は見てないなー」
「俺も知らねぇぞ」
「俺もだ。俺たちより千鶴に聞いた方がいいんじゃねぇか?」



久しぶりの巡察の後、名前ちゃんにお土産をと思って買ってきた団子が冷たくなっていく。あぁ、もう。どこに行ったのさ。三馬鹿に聞いてみたものの、やっぱり口に出す言葉は、知らない、その一言だ。千鶴ちゃんに聞くのも何か癪だ。以前、確か彼女言ってたんだよね。名前ちゃんは暗くて狭いところか人目につかない所を好むって。前回は猫を抱いて屯所の屋根で眠っていた。名前ちゃんがいなくなったって、ちょっとした騒動になったくらいだ。それくらい彼女は人の視線を嫌がる。彼女の境遇を考えれば理解できなくもないけれど、見えないところにいられると困るんだよね。本当に鬼たちに誘拐されちゃっても気付けないわけだし。なんて僕は建前をつけて彼女を探す。おーい、名前ちゃん出ておいで、なんて幼い子を呼ぶかのように。

今日は珍しく、というより最近かかっていたたちの悪い風邪が治ったようだ。以前は咳のおかげで巡察も碌にさせてもらえていなかった。その分、土方さんで遊んでいたけれど、すぐに病人は寝てろって部屋で寝かせようとしてくるんだ。まだ陽が照っているような明るい時刻に。でも、もう大丈夫。咳は出ないし、体の怠い所もない。時々名前ちゃんの前で咳き込んじゃって心配させたからそのお詫びにって団子買ってきたのに。一体彼女はどこにいるんだろう。暗くて狭い所は自分の思いつく限りの場所を探した。それでもいなかった。んー…困ったな、と一旦自室に戻る。こういうのは始まりに何かあったりするからね。…とは言ったものの、本当にいるとはね。僕の部屋に戻る際に通る僕の隣である彼女の部屋。たまたま襖が開いていて、中を覗いてみると僕が探していた名前ちゃんがいた。



「珍しいね。君が僕の気配に気づかずにぐっすり眠っているだなんて」



普段は気配を消していても気付くくせに。それだけ僕たちに対して油断しきっていることなのか。嬉しく思う反面、僕たちは男として見られていないのだと考えさせられる。いくら自分が男の恰好しているからと言って、自分がそこら辺の男より強いからと言ったって、僕たち幹部なんかから見たら名前ちゃんだって千鶴ちゃん同様にちゃんとした女の子だ。きっと君は分かっていないんだろうね。君くらいどうとすることなんて簡単なのに。



「…あれ、起こしちゃった?ごめんね?」



比較的柔らかい彼女の頬を触っていたら目が覚めたみたいだ。少し状況が読み込めない、みたいな顔をしてすぐにいつもの仏頂面に戻った。



『何ですか沖田さん』

「酷いなー。僕、名前ちゃんを探してたんだよ?これを一緒に食べようってね。まさか前みたいに探す羽目になるとは思ってなかったけど」



わざとらしく団子を彼女の視界の端に入るように持ち上げながら話す。そうすれば彼女はすぐにすみません、お茶入れてきますね、なんて言って席を立つんだ。



『…そんなことありましたっけ。貴重なお時間をいただいてしまって申し訳ありませんでした。お茶入れてきますから待っていてください』

「うん、早く戻ってきてね。君を探してたらお腹がすいちゃったから。遅かったら全部食べちゃうかも」






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