▲coward

「え、ひかちゃんと名前ちゃんって付き合ってるんじゃなかったの?」

『よく言われるけど、付き合ってません』



この間は三つ子に捕まり・・・今度は光のすぐ上の兄、要に捕まった。時間的に仕事帰りではないだろうし、女の人とハッスルしてたのだろうか。どうでもいいけど。



「でも手は出されてるんでしょ?」

『・・・・・・・・・まぁ、それなりに』

「ただれてるねー」



その関係を迫ってるのはあなたの弟なんですけど。一応私は義兄だと分かった時点で関係を消そうとした。それでも迫ったのは光のほうだ。かといって彼が私の欲する言葉をくれるわけではない。



『三つ子と呑んだ時、嫉妬してもらえたかなって思ったんだけどなー・・・』



小さく呟いたその言葉に要が反応する。え、何、つばちゃんたちと呑んだの?俺との呑みは断るくせに?ふーん・・・なんて落ち込んでるフリをしているのは無視をして。



『・・・・・・・・・私はどうすればいいんでしょうね』



光が私に何を求めているのかが分からない。どうすればいい?どうすれば私の求めるものと同じものが返って来る?



「その様子だと名前ちゃんは決心がついたみたいだね。一つだけアドバイスしてあげよう。ひーちゃんはあれでいて臆病だからね。幸せになりたいなら自分から動くことをオススメするよ」

『自分から動く・・・』

「うん。俺からのアドバイス。覚えておいて。じゃ、頑張ってね」



カフェの伝票を持って、要はあっという間にカフェを出て行った。何だあれ。動きが華麗すぎて突っ込む間もなかった。コーヒーくらい自分の分は自分で支払うのに。

・・・自分から動け、ねぇ。私も伊達に歳を重ねているわけではない。もう少し若ければ何も考えずに言葉に出来たのだろうけど、理論で心を押し付けることになれてしまっている。そんな私が勇気なんて出せるのだろうか。逃げてしまった私が。

要と会った帰り、丁度マンションの下で光を見つけた。・・・女の人の腰を持って、空いている方の腕で彼女の荷物であろう鞄を持って。



『・・・・・・はっ』



今日は遅くなると伝えてあったから、こんな時間には帰ってこないだろうと思っていたのだろうか。私がいない間に彼は女の人を連れ込んでいたのか。良かったじゃないか。言葉にする前で。私が言わなければ気まずくなることなんてないよね。一度諦めた想いだろう。そのままだった、それだけ。

段々視界がぼやけていく中、光と女の人がキスをした。


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