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「終わったな……」
「はぁー…疲れたあ…って俺殆どなーんにもしてないけど」
俺達は熱気の篭った体育館と太陽の照り付けるグラウンドから解放され、教室に戻った。
「今日鞄パンパンなのに、体操服持ってかえらないとー…」
「俺も。試合は中だから砂汚れはあんまねーけど汗やばい」
恐らく明日は筋肉痛だ。正直帰ってからなにもしたくないけれど、寮に入ってから飯や風呂を自分でしなくちゃいけないのが辛い。
洗濯はランドリーがあるが、盗難とかがあるらしいと聞くから出来るだけ部屋でしている。
教室はクーラーが付いていて少し寒いくらい。それでも外から帰ったばかりの皆には適温だ。
椅子に座って机に体を預けながら、今日のことを思い返した。
「結局総合優勝は3年生だったねー」
「まあ、仕方ねーだろ。レベル違いすぎ、出来レースもいいとこだ」
「サッカーにバレー、バスケ……ドッチくらいじゃんー?3年が優勝じゃなかったの」
俺達のクラスは初戦敗退か第二試合敗退のみだったらしい。
しかたねーか…
「美山先輩結局サッカー一位だったねえ…上手かったもん」
「一人だけ格が違ったよな」
「副会長のクラスもバレー2位だったらしーし…決勝見に行きたかったなぁー!」
今日生徒会室に顔をだしたら、先輩におめでとうって言わないとな。
美山先輩は無愛想に見えて意外と優しくて、甘えたなところもあるらしい。最近気付いたこと。
生徒会は仕事はしんどいけど、いつも副会長がお茶を出してくれるし…不満はあまりない。
強いて言えば…修斗がいることだがそれだけはどうにも変わらない。
…なにしろ生徒会長だから。
包帯の負かれた小指をなぞる。試合中の風景が思い浮かんだ。
今日助けてもらったお礼は、言うべきか?
……向こうはもう迷惑かもしれないから、言わなくても……
なんだか落ち着かなくて胸のあたりがもやもやする。
そんな些細なことひとつで悩む必要なんてない。先輩におめでとうと声をかける際に、あいつにもついでに一言いえばいい。
そんなことがぐるぐる頭を回るのが嫌で、寝ようかなと思った時、剛がしみじみとした様子で言った。
「もうすぐ7月……夏休みすぐだぞ」
「うーん、そうだねえ……」
「休みに入ったら、前から言ってた買い物でも行くか?」
「…うんっ、行く行く!」
買い物。そういえば約束してたんだった。
生徒会に入ってからすぐは覚えることだらけで外にでる時間は取れなくて。
ムクリと机から顔をあげ、なにもない耳たぶのピアス穴をなぞった。
まだ開いてる。閉じてしまった後にもう一回開けるのは勘弁したい。結構痛かったし、アレ……
(ひなちゃん、ちゃんと持ってんのかな…)
あの日手渡したあの蒼色のピアスはあれ以来見かけない。当たり前だ、人もものだからひなちゃんがつける訳がないし。
(なくしてくれてたらいいに…)
そしたら諦めがつくだろう。手元にあったら置いておいてしまうから。
「夏かあ〜……」
「まあ、そのまえに期末試験だけどな」
「……それは聞きたくなぁい……」
もう夏だ。
一学期色々あったが早かったような気さえする。
きっと何ごともなく一年が終わるだろうと、いや終わってくれと思っていた。
でも現実は、思いどおりに行かないのがデフォルトなんだろ?
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