背徳の両手が選んだ答え



さて、どうするか。夫婦仲は戻りました、もう心配いりません。そんなことが通る世界だなんて思っていない。タイムリミットの3日間は後1時間程度で終わりを迎える。そうしたら私は殺される。左之助も同じだろう。お互い自分のファミリーに、相手のファミリーに命を狙われる。そうなっては生きていられるとだなんて思いやしない。

もうすぐで死ぬかもしれないというのにあまりにもゆったりとした時間が流れる。始めからこうすることが当たり前であったかのように。肌と肌が触れ合う感触。大きな腕に抱かれて彼の胸元に顔を埋める。ずっとこんな時間が続けば良いのに、そんな幸せを掴むことすらままならない。



『…左之助』

「分かってる。どうやらお出ましのようだな」



殺し屋が住む家。人の恨みを買うことを理解していることからあらゆるところに罠がしかけてある。罠の作動する音を聞いて私たちは起き上がった。モニターを見てみると見知った顔が。…一君か。あと一人。茶髪の男は左之助のファミリーの一員だろうか。

よりによって一君なんだ…と自分の運のなさを恨む。失礼だけど烝君ならどうにかなった、かもしれない。一君は駄目だ。ファミリー1強いと言われているし、私の技術はすべて一君からのものだ。そんな私が一君とまともに遣り合っても勝てるわけがない。………覚悟を決めなきゃ。



『私が囮になるよ。一君の戦い方は分かってる。…もう一人は知らないけれど、この家なら私たちの方が有利でしょ』

「駄目だ。麗奈、死ぬつもりだろ?分かってるんだよ、お前の事は。何年夫婦やってると思ってるんだ」

『でも…!2人で逃げてたらあっという間にバレちゃうよ』

「でもじゃねぇ。やるんだよ」



ほら、と出された手を取って、私たちは息をひそめながら家から脱出した。そのまま近くに停めてある車に乗り込む。



『…爆発させちゃおっか』

「いいぜ。どうせそんなので死ぬような奴じゃねぇしな。総司は」

『一君も絶対に追ってくるよ。じゃあいくよー』



ドンッという凄まじい音とともに崩れていく家。お気に入りの食器とかカーテンとか集めたのになぁ。ほら、また買ってやるからそんな顔するんじゃねぇって。はーい。

あ、追ってきたよ。後ろに3台。まだ増援来そうだね。おー、じゃあ飛ばすぞ。左之助はしっかり前見て運転しててね。助手席から顔を出して一発二発と引き金を引く。タイヤに当てて、走れなくするのだ。とりあえずの足止めにはなるだろう。



「おいおい、そんなエロい格好して。誘ってんのかぁ?」

『着る時間がなかったの』



羽織った左之助のシャツの裾から手が入り込もうとしてくる。そんな手をぺしりと叩いて運転に集中してと注意して。

左之助、増えたよ!2台ダメにしたのになぁ。じゃあ麗奈、また頼むぜ。はーい。パンパンと乾いた銃声が鳴る。ふふん、銃の腕は一君お墨付きだからね。外さないよ。



「お、狙い良いじゃねぇか」

『鍛えてるからね』



まさかこんなところで成果が出るだなんて思いもしていなかったけれど。それから追手をどうにか交わして。辿り着いたのは誰も私たちのことを知らない場所。



『…わ。教会…?綺麗ね』

「俺たちのしてきたことは神様に許されねぇかもしれねぇが、誓ってやるよ。ほら」



ぱさっとかけられたのはカーテンレール。…カーテンレール??え、なに。



「いつかちゃんとしたやつ着せてやるから、楽しみにしとけよ。俺の可愛いお嫁さん」

『ふふっ、綺麗なうちに着させてくれないと怒っちゃうからね。しわしわの写真なんて嫌よ?』

「職無しの俺にそれ言うか…?」

『私も仕事探すから!…あ!ねぇねぇ、この近くでお店を開かない?私と左之助で!』

「いいんじゃねぇか?お前と二人なら何でも楽しそうだ」










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「土方さん良かったのですか」



カタカタとタイミングよく打っていた指が止まる。斎藤の真意を問うように土方は彼を見つめるが、観念したように呟いた。



「仕方ねぇだろ。こっちにも被害が出てたしな。………俺はあめぇか」

「いえ。もし俺たちが引いてもあちらが追う可能性は」

「あるだろうな。だがそれは俺たちの知ったことじゃねぇ。あいつはもうファミリーじゃねぇんだ。逃げたきゃ逃げるだろう」



話は終わりか?と確認する前にパソコンに向かう土方。その顔は少し口角が上がっている。斎藤はこれから彼女の分の仕事が俺に回ってくるから忙しくなるなと思いながら土方の部屋を後にした。




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