戻りたい、戻れない






「麗奈、準備は良いか?」

『うん、後は敵が来るのを待っていれば良いだけだよ。一君』



カチャ、と銃を向ける。ターゲットは最近出てきた30代の投資家。何やら訳ありらしい。詳しいことは私は知らない。私はただ言われた通りに処理するだけだ。

…お、出てきた。警備が三人。あらあら、ここ、ガラ空きだよ。セットしておいた経口15.8mmをターゲットに向け引き金を引いた。いや、引こうとした所で邪魔された。



『一君っ、駄目だ、一般人が…っ!!』

「麗奈、どうした?麗奈!?」



ライフルを蹴り上げられて私は普段愛用しているリボルバーピストルを素早くズボンから取り出す。戦闘もできないわけではないけれど、策はいくつもあった方が良い。狙って二発。とりあえず挑発する。すぐに隠れていたけれど、角に隠れているのはわかっている。次は外さない。絶対に殺す。

………動いて来ない。息を整えて。来ないのならばこちらから。思い切り床を蹴り、相手に襲いかかる。…頭をめがけて宙に上がった足は掠っただけで大したダメージにならなかった。なんでなんでなんで。こんな所に貴方がいるの。どうしてこんな血腥い所に左之助が。私の片足を掴んだ彼は身体を地面に押し付ける。咄嗟に受け身を取った私はそのまま腕を伸ばして左之助の胸に銃口を向けた。それと同時に私の頭に突き付けられる銃口。どちらが早いか。引き金を引けなかった方が負け。



「………」

『………』



…動かない。引き金に人差し指はかかっているのに、そこから指が動かない。手が震えて狙いが定まらない。

目線は動かさないまま息を整える。大きく吸って、ゆっくり吐く。銃に左手も添えて狙いを定めて引き金を引いた。乾いた音が響く。私の上にいた左之助がのけ反ったのを確認して私は彼を突き飛ばす。

麗奈、と増援の一君の声が聞こえたから私は撤退する。そんな私に向けて銃が撃たれた。それは足を掠ったけれど一君の元まで急いで駆けてった。



『………ごめっ、はじめ、くん……失敗、した』

「…分かっている。とりあえず山崎君に診てもらえ。それから土方さんに報告だ」

『ん…』



それからは散々だ。アジトに戻った私に最初に降りかかったのは烝君の雷。治療をしながら小言をもらって、土方さんにも怒られるし。



「麗奈、顔を見られた時のルールは覚えているな?」

『………見た相手を3日以内に殺す』

「…そういうこった。そんな奴と夫婦なんざ笑い者じゃねぇか」



会話の後、余程青白い顔をしていたのか烝君が心配してきた。大丈夫か、大丈夫だよ。殺らなきゃ私が殺されるんでしょ?烝君か一君に。…ほら、そんな顔しないでよ。私は大丈夫だから。まさか左之助が同業者だなんて思いもしなかったけど。身を隠すには丁度良かっただけだから。



「馬鹿だな君は。何とも思っていなければそんな顔しない」



…私は土方さんに命を助けてもらった身。彼に全てを捧げると決めたのだ。土方さんが望むのならと私は自らを赤く染めてきた。

何も変わらない。今まで殺してきた人たちと何一つ。ターゲットがたまたまよく見知った人物だってだけ。武器を手に取り、私は二人の家へと向かった。





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