瞳を閉じればただの二人



それから何の運命か数ヶ月に1度左之助と会う機会があって。会うと言っても、たまたま仕事に来ていたら左之助もいたというものなのだけれど。…私達が恋に落ちるのにそう問題はなかった。



『んんっ…左之、助っ』

「麗奈…っ!」



左の薬指にキラリと光るのは結婚指輪。職業柄大々的に結婚式を挙げるなんて出来なくて。まぁ私に真っ白なウェディングドレスなんて似合わないけれど。私が着たらたちまち純白なドレスは真っ赤に変わってしまうだろう。これは彼と私を結ぶ大切なもの。どこにいても、遠くにいても、これさえあれば彼と繋がっていられる。



「…おいおい、今日は随分余裕そうじゃねぇ、かっ!」

『え、あっ、ぅん、そんなっ、こと…!』



目の前がチカチカして真っ白になって。私が達したその少し後に左之助も限界が来たらしい。びゅるるると勢いよく私の中に彼の欲が注ぎ込まれる。この時までは愛が確かにそこにあった。

今、目の前にいるのは左之助ではない。ただの醜い太った中年男性。どうしてそんな人が私なんかを抱けると思うのだろうか。貴方なんてお金がなければ誰も相手しないのに。

いつも通り処理を終えて片付けを呼ぶ。烝君を呼べば、もう少し綺麗に殺してくれと怒られた。



『だってこいつ、きったない顔を近づけるんだもん。耐えられない』

「君が旦那以外に唇を許さないのは知っているが………」

『身体はいいけど、口は駄目。そこは彼専用よ』

「麗奈君の線引は分からないな………」



はぁ、と呆れられる。どうしてだ。納得いかない。身体は良い。どれだけ汚されても洗えばなんとかなる。だけど、キスは駄目。そこだけは落としても落としても残っている感じがするから。

外していた指輪を身に付ける。左之助と私を繋ぐ大切な指輪。仕事には邪魔になってしまうから外しているけれど、必ずカバンの中に入っている。



ただいま、と言えばおかえりと返ってくる。すぐに抱きしめられて、乱暴にベッドに押し倒された。



「…何だよ、この匂い」



苛ついたように彼は呟いて、あっという間に服を剥ぎ取っていく。あぁ、おじさん香水臭かったもんね。シャワー浴びたのに匂いが残っていたのだろうか。

痛い、と言ってもそのまま濡れていないナカに挿入れてくる。最初の頃はこんな無理やりはなかった。愛があった。いつからか私が残り香を持って変えることがあって左之助は変わった。左之助だって女物の香水の匂いを着けてくるくせに。



『やぁっ…、あ、あっ、ひゃ……っん、ぃたっ…!』



今日も気を失うまで抱き潰されて。目を覚ましても隣に彼はいない。ベッドの一人分空いたスペースが冷たくて悲しい。

家のどこにも左之助の姿はない。私はこんな仕事だし、家にいないことの方が多い。出張だって言っているけれど。左之助も営業だと言って家にいないことが多い。だから同じ家にいるはずなのに会うことが少ない。そんなことを言ったら烝君に、結婚するなら幸せにしてくれる人を選べと言っただろうと小言をもらいそうだ。幸せだったのだ。これでも。最初の頃は。

左手にある指輪を触る。輝いているはずのそれは私と彼を繋ぐ鎖。これでも恋愛結婚だった。だけど、もう愛は私達の間にない。



『でもさ、烝君。私はこれを外す勇気なんてないんだよ』

「…だから言ったんだ。俺たちのような世界に身をおいている以上、辛いのはわかりきっていたからな」

『うん、ごめん』



私は選択を間違えたのだろうか。




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