見るからにヤッた直後の部屋
ふと、朝日奈さんは私のことを好きなのではないか、と考える。最近お隣さんの域を超えてきている気がするのだ。モテる朝日奈さんのことだ。私をからかって遊んでいるだけかもしれない。垣間見るお兄ちゃんっぽさがあるから実は世話焼き体質なのかもしれない。そう考えていくと自惚れるわけにもいかなくて。そもそも私は朝日奈さんのことをどう思っているのだろうか。好意的に思っていることは間違いないけれど、それが好きかと聞かれると分からないと答えてしまう。
朝日奈さんは私の好みからは外れている。チャラいのは好みじゃない。むしろちょっと無愛想くらいの方が好きである。頼りになる人って言うのは当てはまってるけど、どうにもチャラいという印象が強すぎる。
『…そう言えば最近は聞こえなくなったかも』
お化粧を教えて貰った頃辺りから隣の部屋から喘ぎ声は聞こえなくなった。お隣さんの爛れた性生活なんて知りたくないし睡眠妨害だったからそれがなくなって嬉しいけれど。家を開けているわけではないみたいで、昨日もたまたま顔を合わせたからお喋りした。
そんなことを考えていると隣から何か叩く音が。それから高い声で汚いことを発した彼女は乱暴にドアを開けて出ていった。こそっと眺めていたのがバレて私はお隣さんの部屋に連れ込まれた。
「アンタ見てたの」
『えっと、叩くような音が気になって…。そしたらヒール鳴らして女の人が朝日奈さんの家から出ていきました』
「こんなところを見られるなんてね」
『すいません…』
「いや、こっちの落ち度だからアンタが謝らなくていいの」
朝日奈さんの頬は痛々しく赤く腫れ上がっている。爪が当たったのか少しひっかき傷もできていて。とりあえず冷やすものをと勝手に冷蔵庫から保冷剤を取り出した。
『…これで冷やしておいてください』
「ありがと」
あぁ、台所に行っている間に少しだけで良いから片付けてくれていたら良かったのに。ぐしゃぐしゃになった布団に独特の臭い、未使用のゴムがそこに落ちてるし、ゴミ箱には簡単に結ばれた白い液体が入ったもの。全てが先程までの行為を物語っている。それがどうしてこんな事になったのかはわからないけれど。
朝日奈さんから言わない限り私からも聞かない方が良いのだろう。そんなものに首を突っ込むほど野暮じゃない。朝日奈さん自身がどうにかするだろうし。
「愛唯は優しいな」
そんなことないですよ。私だって打算で動く時もありますし。そんな純粋で綺麗な子じゃないんです。思い浮かんだ言葉を飲み込んで、感謝を一言口にした。