「寂しかったからこっち来て」
その日、家のドアの鍵をガチャガチャ回していたら誘拐でもされるかのような手口でお隣さんに連れ込まれた。仕事と頭痛いので忘れてた…。この問題が残っていた。
「アンタ、いい度胸だね。朝になったら勝手にいなくなるなんてさ」
『すいません…仕事があったので。それに、私、何も覚えてなくて』
「…ほんとに?」
『はい。どうしてお隣さんの部屋にいたのかとか分からなくて』
でも、それは勝手に出ていく理由にはならないですよね。すいません。頭をぺこりと下げる。朝日奈さんは力を抜くように大きなため息を吐いた。
「愛唯はあの時大分酔っ払っていたからね…仕方ないか」
アンタ一緒にタクシー乗ってた奴に食われそうになってたんだよ、それを助けただけ。何もしてないから安心しな。
話を詳しく聞けば、私は上機嫌でタクシーで降りたらしい。フラついていて危ないからということで同期は肩を貸してくれ部屋まで送ろうとしていたとか。聞いてると同期はものすごく良い奴って感想なんだけど。食われそうになったなんて朝日奈さんの勘違いじゃ…。
「そのタクシーを返していなければね。自分が戻るつもりならタクシーには待っててもらうでしょ。夜中だし、呼んでもいつ来るか分からないのに」
ま、余計なことしたなら悪かった。なんて、私を助けてくれたのに。
その後は声をかければ愛唯は朝日奈さんだ〜なんて言ってこっちに寄ってきたから適当に言いくるめて同期の奴は帰したってわけ。あ、最初はちゃんと部屋に送ろうとしていたんだけど、アンタが酔い過ぎて鍵も碌に出せないし、しがみついて離さなかったから仕方なく部屋に上げただけ。ベッドに寝転んだ瞬間に眠りについてたよアンタ。
穴があったら入りたい、とはこんな感情なのだろうか。恥ずかしいやら情けないやらで顔が赤く染まる。朝日奈さんはいい人なのに。疑ってしまって申し訳ない…。
「横から口を出したのはこっちだし、アンタは気にしなくていーの」
ま、それじゃ気が済まないって言うなら、ちょっとこっち来てもらおうかしら。起きたら一人でびっくりしたのよねぇ、わざとらしく高い声を出す朝日奈さんは私を甘やかそうという魂胆らしい。
「ほら、寂しかったからこっち来て」
抱きしめられても嫌悪感なんてものはなくて。むしろ心地よく感じてしまって心臓の高鳴りは気の所為だと言い聞かせていた。