お隣さんから喘ぎ声が聞こえてくるんですが
この度、無事に就活活動を終えて希望の会社で働くことになった。家から少し職場まで距離があったから一人暮らしをすることに。不動産屋さんからもらった鍵でドアを開けて空気を入れ替えていれば、すぐに引っ越し業者が来て家の中はダンボールで埋め尽くされる。
『お隣さんに挨拶行かなきゃ』
よろしくお願いしますって。ピンポーンとインターフォンを押してみても何の反応もない。…留守かな。まぁいいやと家に戻る。何しろダンボールの山から物を片付けていかなくてはならないし、ガスも通してもらわないといけないのだ。ゆっくりする時間はない。
これはこっち。これはまだ後で大丈夫。これはあっちに片付けて…。最低限のものを整理するだけでも随分時間がかかってしまった。日が暮れる前に買い物しよっと。散歩もしたいし。
適当に外に出られる格好に整えて家を出る。物音がしないからお隣さんはまだ帰ってきていないのだろう。一番近いスーパーに最寄り駅の周辺、コンビニをチェックしていればあっという間に外は暗くなっていて。見つけたお弁当屋さんのお弁当を買って帰る。
『いただきます』
ご飯を食べて、また片付けをして、お風呂に入って。今日は疲れたとベッドに寝転んだ。引っ越しって大変…。瞼が自然と落ちて夢の世界へ旅立とうとしている時に甲高い声が聞こえた。びっくりした私は上半身を勢いよく起こす。部屋を見渡しても誰もいない。
『…お隣さん、か』
私の部屋は角だから今日挨拶できなかったお隣さんから聞こえたのだろう。テレビか何かだったのかな、と考えようとしたのだけれど、またあの声が聞こえた。
「ぁ、ぁ、んっ…」
『………マジか』
明らかにその声はヤっているときのそれで。勘弁してほしい、疲れているから寝たいのに。っていうかそんなに壁薄かったのか。それとも女の人の声が大きいのか。どちらにせよ私の安眠は当分訪れそうにない。
『はぁ………』
大きくため息を吐いた私は水を飲みに台所へ向かった。