風邪をひいたお隣さん
『大丈夫ですか、朝日奈さん』
休日の午後。買い物に行こうとドアを開けたらお隣さんの玄関が少しだけ開いていて。不用心だなぁと、開いていることを伝えようと思ってドアを開けてみれば朝日奈さんが玄関口で倒れてた。仕事の関係で最近あまり眠れていなかったらしい。それが祟っておでこに手を当てただけで熱だって判断できる程度には熱かった。
お邪魔しますね、と朝日奈さんを支えながら彼の家に入る。数回入った朝日奈さんの言え。間取りもほぼ一緒だし、迷うこと無くベッドまで運んで物を勝手に触る許可を得た。タオルを冷やして、何も食べていないそうだからお粥をささっと作って。風邪薬は家から取ってきた。隣だから行き来に時間かからないし。
「…悪い、寝てたら治るから」
『私だって迷惑かけることあるんですから。お互い様です』
ちゃんと食べてくださいね、風邪薬もちゃんと飲んでください。水もしっかり飲んでくださいね。今日は仕事しちゃ駄目ですよ。
つい口うるさく言っちゃった、と黙り込む。私はただのお隣さんなのに。これは明らかにお隣さんの域を超えている。あ、えーっと、なんて何を言おうか悩んでいると朝日奈さんが可笑しそうに笑った。
「アンタ、面白いね。医者の兄みたいだ」
『…お兄さんがいらっしゃるんですね。いいなぁ』
「いいことないよ。兄が3人に弟は9人もいるんだから。煩いったらありゃしない」
『9人!?すごい大家族じゃないですか…』
しかも男ばっかり。上に3人、下に9人ってことは13人兄弟か。すごいな…。私は妹が1人いるだけだから全然想像がつかない。妹は頑固な所もあるけれど、どちらかと言えば大人しいタイプだし。むしろ妹の飼っているリスの方が騒がしい気がする。
とりあえず、私に今できることは全部やった。後は安静にしてもらっていれば良くなるだろう。
『じゃあ私は帰りますね。何かあったら呼んでください』
「愛唯、用事でもあるの?」
『買い物くらいですけど』
「治ったら付き合ってやるからここにいてよ、ね」
いつもはそんな姿見せないけど、やっぱり寂しいのかな。随分賑やかな家族みたいだし。私は分かりましたと頷いて彼のことをずっと見ていた。