お酒に関する5題 | ナノ


酔うと口が悪くなるんです  








『要さんの女たらし、ばーか』

「はいはい。そろそろ飲むのやめよーね?名前ちゃん」

『やー…』



ぷーと頬を真っ赤にせままれれば、さすがの俺も取り上げた酒を容易く渡してしまうわけで。また彼女は飲み始める。

そもそも名前がこうなったのは少なからず自分に責任がある。仕事のことには口を出さない名前だけれど、自分の彼氏が他の女の人を口説くようなことをしていて決していい反応が帰ってくるはずが無い。ましてやそのために夜、一緒にいられないなどもっての外だろう。だが名前は何も言わず、一人で抱え込んでいた。

それが今日、爆発したというだけである。元々デートをしようと誘ったのは要だった。名前を待たせないように、と要の気遣いだったのだが、それが裏目に出てしまったのだ。顔の整った、背の高い男が一人、駅の柱にもたれ掛かっている。そんな状態で誰が放っておこうか。みるみるうちに要は女性に囲まれてしまった。彼は優しい。女性を決して邪険に扱うことは無い。だから余計に悪化して。約束の時間丁度に現れた名前の眼に映ったのはまるで女性に囲まれて鼻の下を伸ばす要の姿だった。





『要さんの女好きー!私なんかより綺麗なお姉さんがいいんだ…』

「俺は名前ちゃんだけなんだけどなぁ」



ハイテンションになったかと思えば、すぐに落胆して。その速さに要はついていけない。どうにか宥めながら、眠らせる方法を考えていた。寝かせてしまえばこちらのもの。だが、名前はアルコールに強い方だった。よく飲む朝日奈家の兄弟の中でも1、2を争うほどに。要も決して弱い方ではないが。けれども同じペースで飲んでいれば、その内、限界がやってくる。



『分かってるもーん……どうせ私には胸なんてないですよーだ!』

「名前ちゃんには名前ちゃんの魅力があるけどなー」

『要さんの馬ー鹿。もう、嫌い。ううん、好き。でもやっぱり嫌いー』



冗談だと分かっている。本気でないと分かっている。けれども名前のそれを受け流せるほど、今の要に余裕は無かった。

年々綺麗になっていく名前。恋人になってからも名前を狙っている兄弟はいて。諦めの悪い兄弟達に呆れながらも、もし逆の立場だったらと考えてしまえば、要は何も言えなくなる。それに名前も名前で油断しすぎている節がある。家族だから、というのも分かるけれど所詮は男と女なのである。自分に対しても、男だと分かっているのか聞きたいことが何度かあった。それくらい危機感が名前には足りていないと要は思っていた。



「そんなこと言っちゃう口はどの口かな?優しく塞いじゃおうか」



なんて言いながら名前の唇を半ば強引に奪う。要にしては珍しい行動だった。

お酒の匂いが鼻につく。絡ませた舌にお酒の味がする。



『んっ…ふぅ、っ……かな、ぇ…』



狼狽する名前。抵抗しようと要の胸を押しやるが、所詮は女。それも酔っ払っているために力がてんで入っていない。後頭部に手が回されているため、呼吸をしようにも唇を離すことができない。軽く開いた唇の隙間から入ってきた舌は熱く、歯列をなぞって名前の中を隙間なく愛撫するかのように舐めまわしていく。二酸化炭素の濃度が一気に上がったためか、名前は眠りについた。



「あーあ。今からお楽しみだっていうのに、仕方ないなぁ」



そう言う割に要の表情は嬉しそうだった。兄弟の誰にも見せたことのないような、そんな顔。



「でも嫉妬してくれる名前ちゃんが可愛くてまたしちゃうかも」



また俺が女の人に囲まれてたら嫉妬する?と頬に軽くキスをして、彼女をベッドまで要は運んだ。

次は覚悟しておいてよねと言う声はとても穏やかだった。




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