07.



俺には幼馴染が二人いる。とてもとても大切な女の子。そんな二人には素敵な恋人がいて、とてもじゃねぇけど俺なんかじゃ相手になりもしないんだ。なのにその内の一人に俺は恋をしてしまった。どうやったって勝ち目のない、そもそも戦わせてさえもらえない、そんな恋。苦しくって悲しくって辛くって。その恋を、もう、終わらせる。そう決意したのは今朝方。

久しぶりに早く起きたから少し走ってくるかな、なんて思って玄関を出た矢先のこと。隣の家の玄関に人がいる。それも女と男の二人。俺には気付いていないらしい。こんな時間に誰だ、と気になって植木から覗いてみると、一君と香織の姿が。その姿を捉えたとき、心臓が大きく跳ねた。俺の大切な幼馴染で、俺の想い人である香織。俺の一つ上の先輩で幼い頃、同じ道場いた仲間である一君。俺にはどちらも大切で。香織への想いを叶えることも伝えることも出来ずに一人悶々としている。



もうすぐテストがある。だから部活は休み。千鶴に日直で遅くなるから先に帰っていてと言われた俺と一君に補習があるから先に帰ってろと言われた香織、珍しく二人で帰る。触れそうで触れられない、そんな距離。

会話が途切れることはなかった。あの先生があんなこと言ってただとか、授業でこんなことがあったとか…一君とのこととか。



『そうだ、今度勉強会しない?先輩たちも呼んでさ!教えてもらいたいな』

「…そうだな。でも忙しいんじゃないのか?一君ずっと学年上位キープしてんじゃん」

『確かに。邪魔はしたくないなぁ』

「今週と来週のテスト中を乗り切ればまた毎日会えるんだしちょっとぐらい我慢しとけばいいんじゃねーの?軽い電話くらいはしといてさ」

『そうだねー。長電話しないように気をつけないと。良い点取ったらご褒美くださいって言っておこうかな。そうしたらやる気出る』

「ははっ、いいんじゃねーの?一君がオッケーするか、だけど」

『んー、ご褒美どうしよっかなー』

「…聞いてねぇし」



前を行く香織はとても眩しくて。俺なんかが伸ばした腕じゃ全然届かない。今なら風や自動車の音、町の音が俺の気持ちを見て見ぬふりしてくれるだろうか。



「……好きだよ、香織。世界で一番、お前が好きだ」



ザァ…と木がざわめいた。香織が振り返って、俺の方を見る。



『私も平助のこと好きだよ』

「………ははっ、そっか、俺たち両想いじゃん」

『当たり前でしょー。平助も千鶴も私の大切な幼馴染だよ』

「…そっか、そうだよな」



一瞬、期待した。そんなことあるはずもないのに。俺の好き、と香織の好きは根本的に違う。分かってたのにな。



『変な平助ー』

「うるせぇな。まぁ、なんだ、これからもよろしくってことだよ!」

『ふーん?よろしくね平助』

「よろしく、香織」



愛してた、そしてこれからも大好きな香織。俺の気持ちに整理がついたら香織と一君のこと心から応援するから。それまでは俺の大切な幼馴染のお前のままでいて。




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