06.




『お疲れ様でーす』

「タオルとスポーツドリンク用意してありますのでどうぞ」



走り込み。体力作りも大切な部活の一環だ。肩で息をしながら二人からタオルとスポドリを貰う。同じ距離を走ったというのに一君は余裕そうで、何やら香織と相談している。タイムを測っていたからその確認だろうか。一枚の紙を覗き込むようにして見る二人の距離はかなり近い。真面目に話し込んでいるらしく気付いていないみたいだが、こっちから見るとイチャついているように思わなくもないような距離。ふと顔を上げた香織がそれに気がついたらしい。顔を真っ赤に染め上げ急に一君から距離を取った。一君もその行動の意味に気がついたらしい。赤く頬を染め、少し後ずさった。



「はじめくーん。せっかく僕が部活に来たっていうのにイチャつかないでよー」

「誰がだ。そもそも部活は真面目に来るものであって、せっかくという表現は正しくないだろう」

「うわ、真面目ー。ねぇ香織ちゃん、こんな真面目な一君なんて止めて僕にしない?」

「総司」

「はいはい、冗談だって」

『もー…。沖田先輩、からかわないでくださいよ。格好いいんだからときめいちゃうじゃないですかー』

「え、本当?僕が本気で口説いたら落ちてくれる?」

『ときめくだけですね。一先輩一筋なので』

「ちぇっ…残念」



”一先輩一筋”その言葉が胸に重くのしかかる。分かっていても、知っていても、実際に彼女の口から発せられた言葉が俺の胸をナイフで抉っていく。はぁ…。俺も総司みたいに冗談で済ませれたらいいのに。

集中力が完全に切れていた。俺は竹刀を弾き飛ばされ、避ける術もないままに相手の渾身の一撃をくらった。数歩後ろによろめいた。










『平助っ、大丈夫?』



目が覚めたらすぐ近くに香織の顔があった。困ったような、泣き出しそうな、そんな顔。そんな顔しないでくれよ。俺、お前の笑ってる顔がすきなんだ。



「……あれ、俺………」

『思い切り打ち込まれた後、よろけたでしょ?そのまま倒れていくときに頭をぶつけたんだと思う。多分大丈夫だと思うけど、今、土方先生が車用意してくれてるから』



どうりで記憶が曖昧なわけだ。先程から後頭部が痛いのはそのせいか。クッションがあってよかっ…あー!!!!これって膝枕ってやつじゃん!!恋人同士がいちゃいちゃするのにするやつじゃん!!俺、今、香織にしてもらっちゃってるよ!!



「…ぁ」



ツーと鼻から出てきたものを手で確認してみる。やはりというか、それは血で、興奮してしまったせいで鼻血が出てしまったのだ。



「…情けねぇ」



応急処置として鼻にティッシュを思い切り突っ込んで、また上向きに寝転ぶ。枕は香織の膝。情けないけど幸せで。もうしばらくこの時間が続けばいいのにと思ってしまった。



[ 戻る ]

×