02.



俺が恋心を自覚したからと言って、何かが変わるわけではない。いつも通り朝練に間に合う時間に千鶴に起こしてもらい、そのまま香織の家に行く。香織もどちらかというと朝に弱く、大抵寝ぼけながら準備をしている途中で俺と千鶴が手伝うという感じだ。

そうして三人の準備が整ったところでようやく学校に向かう。香織に一度、一君と一緒に登校しないのかって聞いたことがあるけれど、一先輩は基本一番に学校に行っているし、寝ぼけた姿なんて見せたくないから断ってる、と言っていた。…寝ぼけた姿可愛いと思うけど。

学校に着いたら朝練の為、俺は胴着に、二人はジャージに着替える。今、道場に女子更衣室を作らないか交渉しているという。そりゃわざわざ三階にある更衣室まで行くのは面倒だろう。



「おはよー、一君。今日は総司もいるじゃん」

「たまにはね。可愛いマネージャーも入ったことだし」

「総司、アンタは副部長としての自覚がなさすぎる。本来ならばサポートする立場なのにアンタときたら………」



おっと、いつものお説教が始まったのでこそこそ逃げよう、…と思ったら首根っこを捕まれて何故か俺まで正座させられた。



「平助、この間のテストの点数を言ってみろ。土方先生が嘆いてらっしゃった」

「いいじゃん!赤点はなんとか回避したし!!」

「回避って…赤点取りそうな点数取るなんて平助君、馬鹿なんだね」

「総司だってそうだろ!!」

「僕は土方さんが担当の古典以外は点数いいから」

「裏切り者!」



そうやって騒いでいると部活動の様子を見に来ていた土方さんの雷が落ちた。最悪だ。その後ろに香織と千鶴。二人が怒られているわけじゃないのに顔を真っ青にしていた。土方さんの怒鳴り声が滅茶苦茶怖いんだろうなー、俺も怖いけど。怖くないのなんて総司くらいだろ、なんて思いながら聞き流す。確かに騒いでたのは悪かったけど、俺は朝練しに来たんだっつーの!!



「じゃあまたな香織!」

『うん、放課後ね!!』

「今日、私日直だから部活少し遅れるって伝えといてもらえる?」

『了解!!』



俺と千鶴は同じクラス。香織は隣のクラスだ。体育は合同だし、教科書の貸し借りには助かる。まぁ基本俺が借りてるだけだけど。この前暇すぎて日本史の教科書に落書きしたら怒られた。傑作のぱらぱら漫画だったのによ。

昼は俺たち別々だ。千鶴はこっそり土方さんと、香織は一君と一緒に食べるから俺は友達と一緒に、となる。たまに総司とか剣道部の連中と食べるときはあるけど。大抵は購買でパンを買う俺。教室に戻ってクラスの奴らと食べようと戻っていた所、丁度香織と一君を見かけた。何を話しているのか分からないが二人とも幸せそうな表情をしている。そしてその顔と顔が近づいて―――キスをした。チュッって効果音がつきそうなやつ。離れた後の香織の顔が恋する乙女って顔になってたことは確認出来た。



「………ははっ、タイミング悪ぃ」



乾いた声が誰に届くこともなく消えてった。




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