山南さんが薬を飲み、助かるか助からないかは五分五分だそうだ。

そんな報告を烝君から受けたのは所用を終えて屯所に戻ってきた時。山南さんの元に、って動き出そうとした俺を烝君が止める。近藤局長と井上さんが診ているからと。今、君が行っても何もできることはないと。



『っ、俺はあんなものに手を出して欲しくなかった…!』



変若水―――それは通常では有り得ない程の力を受け、尋常でない回復力を有する化け物に人を作り替えるものだ。しかも副作用として血に狂う。新選組の立場を考えたら幕府からの依頼を断ることは出来ないのは理解出来る。変若水の話が来た頃はこちらも人手不足で、新選組にも利点はあった。それなりに人が集まってきた今じゃ、扱いに困ったものと成り果てたけれど。

山南さんが元のように刀を振るうことが出来なくなって悩んでいることに気づいていた。伊東さんの登場により余計に焦っていることも。でもまさか、変若水に手を出すなんて。

俺は屯所に帰ってきた足取りのまま左之さんがいる八木邸の方へ向かった。



「なんだ、名前か。今の所、隊士達に動きは見えねぇぞ」

『………うん』



左之さんの隣に立って隊士達の動きを見張る。それからはお互い無言だった。

山南さんの左腕が治らないことは分かってた。今まで通りに刀を振るうことが出来ないことも分かっていた。山南さんが苦しんでいることにも気づいていた。なのに何も出来なかった。無力が自分が情けなくて。女だと知っても男として過ごすことに協力してくれたのに、大事にしてくれたのに、俺は何一つ返せないまま。

知らない間に手を強く握りしめていたらしい。爪が食い込んで少し血がにじみ出ている。



『夜が明けたね…』

「あぁ。そろそろ何か連絡があっても良いと思うんだが」



山南さんは今夜が峠だと聞いた。これまで何もないことを考えると無事に越えられたのだろうか。だとしても、もう…。彼は羅刹という化け物だ。今までと同じ、というわけにはいかない。

そんなことを考えている間に一君がやってきて。広間へ集まることとなった。






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