ザワザワと人が激しく出入りする。今日は屯所の近くの神社でお祭りだ。そのため、私たち新選組は見回りに駆り出された。遊び半分、仕事半分だけれども。どうにか仕事詰めの土方さんを説得して、私も祭りに参加。
人の多いところは余り得意じゃない。でも土方さんと一緒だから。あなたとならば、どこでも楽しいのだろう。でも…。
「名前、これどうだ?」
『…いいと思いますよ』
ねぇ、その手に持っている櫛はあの子に渡すのですか?その口紅を塗って、花簪を身につけるのですか?
私のほうが、私の方がずっとあなたを見てきたのに。あなたは私を見てくれない。
あなたが見つめているのは屯所にやってきた可愛いあの子。同じ様に男装していると言えども、あの子と私じゃ違いすぎる。立場も生まれもこれまでの経験も。あの子のように料理が作れるわけではない、あの子のように洗濯ができるわけではない。私は、ただ、命令通りに人を斬ることしかできない。
女らしさで彼女に勝つことなんて不可能で。そもそも同じ土俵にさえ立てていない。いくら人を斬っても、いくら泣く子も黙る新選組一番組組長補佐だとしても。私が”女”に戻ることなんて許されない。
『あ………』
「ん?あぁ、飴細工か。確か名前好きだったよな」
覚えてくれていたことに驚いた。それは随分昔の話。まだ新選組という名がなかった時代。京にやって来た私たちは始めて祭りに参加した。総司も一君も平助も、皆一緒に楽しんだのを覚えている。その時に私が飴細工が好きだと言った。まさか覚えていてくれただなんて。それからは色々ありすぎて祭りを楽しむ余裕はなかった。だから嬉しかった。土方さんがそんな些細なことを覚えていてくれて。
「どれにするんだ?」
『え、買ってくれるのですか?』
「あぁ。せっかくだ。それくらい奢ってやるよ」
『ありがとう、ございます』
じゃあこれを、と。一番に目に入ったものを選ぶ。それとその左隣にあったものを持って土方さんは勘定した。土方さんも食べるのですか?という問いを投げかける前に土方さんは口を開いた。
「これはあいつの分だ。俺達の都合で閉じ込めちまってるからな。せっかくだ。土産も欲しいだろ」
『…そう、ですね』
なんだ。私だけが特別なのかと思ってしまった。結局は彼女のおまけなのだ、私は。
あぁ、この飴のように土方さんへの想いも消えてしまえばいいのに。そうすれば楽になれるのに。
『きっと彼女、喜びますよ』
「―――あぁ」
ふっ、と珍しく見せる笑み。きっと彼女に渡した時を浮かべているのだろう。私には決して見せてくれないその表情。
『では急いで帰りましょうか。飴が溶けてしまう前に』
「そうだな」
そうすれば。私の顔もきっと見えない。土方さんの前でだけは仮面で取り繕わせてください。あなたの前で泣くわけにはいかないから。お願いだから笑顔でいさせて。
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