『藤堂さん、いらっしゃい』

「おう!名前、何もなかったか?今日もうめぇ団子を頼む」

『大丈夫ですよ。はい。少々お待ち下さい』



新選組八番組組長藤堂平助。彼は以前、浪士に絡まれて困っていた所を助けてくれた。私は家が甘味処だったこともあり、彼は時々こうやって様子を見に来てくれる。

私はそんな彼のことをお慕いしていた。太陽のような明るい笑顔の彼。そんな藤堂さんを見ているだけで私も笑顔になれるんだ。



「あ、今度仲間と一緒に来てもいいか?オレたちの評判は分かってるし、店に迷惑だって言うならこれからもオレ一人で来るからさ…」

『ふふっ、大丈夫ですよ。藤堂さんと会って噂は間違いだって分かりましたから。お気になさらず、皆さんでぜひ来てください』



なんて言ったのが数日前。早速、彼は実行してくれたらしい。今日は藤堂さんを含めて四人いる。

髪の赤い彼は原田さん、緑の鉢巻をしているのは永倉さん、お二人は藤堂さんと同じように新選組組長らしい。それから桃色の着物を着ている彼。…いや、女の勘だけど、彼は女じゃないのかな。私と同じくらいの身長に大きな瞳。そして高い声。女子だというには十分すぎるくらい条件が揃っていた。

あぁ、藤堂さんに一番近い女子は私だと思ってたんだけどな。どうやら違ったらしい。千鶴、みたらし団子も食べるか?千鶴、ここの茶美味しいぞ。千鶴、千鶴、千鶴…。

いつもここに来た時は私と話すのに。ここに来た時は名前、名前と私の名前を呼んでくれるのに。



「名前、名前ー!何で今日はこっち来ねぇんだよ」

『ごめんごめん。ちょっと忙しくて、さ』

「そりゃ仕方ねぇけどよ…」

「平助、いつの間にこんな可愛い子と知り合ったんだ?」

「ずりーぞ!平助の癖に!」

「俺の癖にってどういうことだよ!?」

『ふふっ。皆さん仲がよいのですね』



あ、やばい。少し声に棘があった。そう思っても言ってしまったものは取り返すことなんてできやしない。幸いにも誰も気づかなかったらしい。うん、それならそれでいいの。



「最近お土産に買ってきてくれていたのはこのお店のだったんだね!」



…やめてほしい。気がついていたのだから。わざとなのか天然なのか知らないけれど、私の傷口に塩を塗り込むのは勘弁していただきたい。今、笑顔で接客しているのを褒めてあげたいくらいなのに。

きっと藤堂さんはこの方が好きなのだろう。平助君と呼ぶ彼女のことを。…あぁ、知らなければ楽しく過ごせたというのに。


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