『平助、左之さんたちが行っちゃうよ』
「………いいんだよ、昨日の内に挨拶は済ませたし」
『だからってこんなに飲んで…飲みたい気持ちはわかるけど、身体壊すよ』
「ははっ、もう俺の身体なんてとっくの前に壊れてるよ」
今日、左之さんと新八さんが新選組を出ていく。近藤さんが変わってしまったから、自分の目指すものと新選組が目指すものが違うようになってしまったから。彼らと特別仲の良かった平助はとても寂しいのだろう。酔いたくなる気持ちも分かるけど。
見送ろうよ、いやだよ、もう生きて会えないかもしれないんだよ…、分かってるよ、なんて。
「けど、なんて言えばいいんだよ。俺だって一度は新選組を抜けた身だ。…あの時、左之さんたちはこんな気持だったのかな………」
もうきっと会えない。この世の中、明日のことさえ見えやしないというのに、そんな未来なんて見えるはずもない。それに、平助は羅刹だ。きっと遅くない未来、平助は寿命がきて灰になってしまう。そうならないように俺がいくら頑張ったところで力になれることなんてほんの少ししかなくて。
『平助には俺がいるよ。俺には平助がいる。左之さんには新八さんがいるし、新八さんには左之さんがいる。ほら、独りぼっちじゃなかったら大丈夫でしょう?』
「…ははっ、そりゃそうだ。一人は寂しいもんな」
平助はいつからこんな顔をするようになってしまったのだろう。全てを悟っているかのような寂しそうな顔を。平助には太陽のような輝く笑顔が似合うというのに。元気だして、という意味を込めて平助をめいいっぱい抱きしめた。
『平助、俺はずっと平助の傍にいるから。鬱陶しがったって、離れないんだからね!』
「そりゃ頼もしいな。お前がいてくれたら俺は何だって出来る気になるんだ。だから…俺の方が名前が離れたがっても離してやれねーっつうの!」
まだ今は、こうして互いの体温を確かめられることに安堵して。来るべき未来なんて何も知らないふりをした。
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2020.04.30 タイトル変更
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