『あら、斎藤さん。ごひいきにいつもどうも』



不良浪士に絡まれていたところを助けてくれた斎藤さん。驚くことに新選組の隊士さんだという。ここ、京の都では新選組の良い噂は全くといっていいほどない。だから私も新選組は人斬り集団、怖い人たち、というくらいの認識しかなかった。でもそれは違った。斎藤一という人に出会ってから間違っていたことが分かった。彼からも彼の話に出てくる隊士さんたちも、私たち民を守るために命をかけて働いてくれている。とてもとても優しい人だ。そんな斎藤さんの人柄にいつしか私は虜となっていて。その気持ちは私だけじゃなくて斎藤さんもらしく、私と斎藤さんは誰も知らない恋仲だ。



「あぁ。少し間を空けてしまったが何事もなかったか?」

『はい。斎藤さんのおかげです』



いつも店を荒らしていた浪士たちは。私にちょっかいをかけてきていた浪士たちは、斎藤さんがあっと言う間に一網打尽にしてしまった。



「名前、慌てすぎだ。粉がついている」

『えっ!?う、嘘!?』



先程までうどんを打っていたのだ。それを斎藤さんの姿が見えたから急いで顔を出した。その際についてしまったのだろう。頬を着物で擦る。こんな姿で出ていただなんて恥ずかしい。



「逆だ。ほら」



何気なく伸びてきた手。その男の人らしい骨張ったその大きな手で私の頬を摩って離れた。



『あ、ありがとうございます』



久しぶりの逢引。これを逢引といってよいのかも微妙だけれど、彼と私はこの私の家以外で会うことはない。私の身の安全のため。新選組の組長を務める斎藤さんと一緒にいる姿を見られてしまえば、浪士に何をされるか分からないからだという。ただ、ここでなら言い訳が出来る。贔屓にしてもらっている人と話して何が悪い、自分の店のお客さんと話して何が悪い、と。だから、他の人から見ればきっとただの町娘と侍にしか見えない。斎藤さんは基本無表情だし、私がへましない限りはばれやしない。

身分違いだと分かっていた。両親が何かに気付き始めていることも。けれど斎藤さんといることが嬉しすぎて。同じ時を共有できることが嬉しすぎて。だから私は浮かれていた。正直言って、浮かれすぎていたんだ。



「名前、今日の営業はなしだ。お前に会わせたい人がいる」

『うん、分かった。お父さん、私に会わせたい人って?』

「来れば分かるさ」



何だか変だなって思ったけれど、ご馳走が食べれるみたいだったので簡単に誘いに乗った。





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