すべてはあの日から始まった
「総司、少しいいか」
「どうしたの、一君」
「いや、アンタには知っておいてほしくてだな」
そうして紹介されたのが若菜ちゃんだった。少し大人びた雰囲気を持ちつつも笑顔が可愛い子。一君の彼女だと紹介されたにも関わらず僕は若菜ちゃんに一目惚れしてしまった。
どうしても彼女を手に入れたい、僕の願いはそれだけだった。その為には一君の存在が邪魔で。僕からだとわからないように女の子を紹介してみたけれど一君は全然興味を示さなかった。
それならば彼女の方は何かないかと、たいした用でもないのに連絡を取るようになった。一君の友達という僕を彼女はすぐに信用した。
「それでね、その時一君が、」
『えー、本当ですか?っと、ごめんなさい。一君からです』
いくら僕を信用したと言っても一君の友達という前提があるからだ。僕単体を見ているわけじゃない。僕は僕を見てほしいのに。どうして君は僕を見てくれないの。
彼女の後を追って家を特定した。彼女の出る講義も把握して、僕はどうしたら彼女が手に入るか、そればかりを考える毎日だった。
『一君、ごめんね。迷惑かけて』
「いや、これからは若菜に怖い思いをさせないよう俺が傍にい、よ、う………」
『一君?どうしたの?』
「若菜」
『なーに』
「これは何だ」
ノイズ雑じりに交わされる会話。若菜ちゃんを一君の家でなんか暮らさせはしない。若菜ちゃんと一緒に住むのはこの僕だ。
『え、なにそれ…。そんなの知らない。私は知らない!一君、早く出よう!この部屋にストーカー入ってきてるよ』
「知らない?これは立派な浮気の証拠だろう。ストーカー等と言って、俺を欺いていたのか」
『ちがう!私は本当に知らない!浮気なんかしてない!』
「若菜、いい加減にしろ!」
乾いた音が響いた。状況から察するに一君が若菜ちゃんを叩いたのだろう。僕の彼女に何をするんだ。
若菜ちゃんは一君なんか知らない、と捨て台詞をはいて飛び出した。その後を追う一君。彼らに気付かれないように僕も二人の後を追う。そして僕にとって喜劇のことが起こる。咄嗟に飛び出した彼女は信号なんか見ていなくて。赤信号で車に轢かれそうになったところを一君が身を挺して庇った。
「………総司、」
僕は血まみれな一君の前に立って若菜ちゃんの容態を心配する。小さな声で若菜ちゃんを呼ぶ一君だけど、彼女は気を失っているようで反応がない。若菜ちゃん、若菜ちゃん、と呼びかける僕に一君は彼女を頼むと言った。何言ってるの、当たり前でしょ。彼女は僕のものなんだから。
若菜ちゃんが目覚めて、何も覚えていないと分かったとき歓喜の表情を抑えるのに必死だった。君は一君のことを忘れて、僕のことだけを知って、僕のものになる。完璧じゃないか。君はやっと本当に僕のものになった。
***
『ひっ…こないで!このストーカー!』
「ストーカー?ひどいなぁ。僕は君を見守っていただけなのに」
『やだ!触らないで!助けて、一君!』
「一君はもういないよ。君の彼氏はこの僕だ」
嫌だ嫌だと首を振っても、君はもう僕のところにしか居場所がないんだよ。暴れる若菜ちゃんを抑えつけて唇を塞いだら絶望したような表情になって。その顔も声も髪も身体も全てが僕のものだと思うとどうしようもないくらい気分が昂揚した。
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