羅刹と初めて対峙してから、僕は更に剣術に励んだ。もっともっと力が欲しい。羅刹に対抗できるほどの力が。
「八重、もうやめなさい」
『………近藤、さん』
「今日はもう終わりだ。疲れを取るのも隊務の内だ」
『…分かりました』
いつまでたっても八木邸に帰らない僕を呼びに来たのはほかでもない近藤さんだった。局長として忙しいはずなのに。僕の手から木刀を取って掌を見る。血豆が出来ては潰れを繰り返し、とても汚い掌だ。
「八重の手は随分小さいんだな」
『近藤さんが大きいんですよ』
「む、そうか」
屯所に戻りながら、久々に二人で話す。近藤さんの隣には土方さんがいるし、京に来てから僕と話す機会なんてほとんどなかった。
「八重。隊務はどうかね?もう慣れたか?」
『もう慣れました。はじめ組長の教え方も良いですし』
「困ったことなんかはないかね?」
『今は特にないです。大丈夫ですよ、近藤さん』
「そ、そうか。それなら良いのだが」
…何か近藤さんの様子が変。上手く言えないけれど、悩んでるみたいだ。局長ともなれば今まで通りにはいかない。あの頃みたいに仲良しこよしでは、やっていけないのに。
大丈夫ですよ、近藤さんの為に僕が働きますから。近藤さんに仇なす者は僕が斬り、少しでも近藤さんに陽が当たるように頑張りますから。僕の手が汚れるだとか気にしないで大丈夫です。僕は近藤さんに大変感謝してるんですよ。あの頃、声をかけてくれたのが近藤さんで良かったです。
そりゃあ、変若水のこととか気にならないわけじゃないけれど。武士を少しでもやっていた身からすれば、上からの命令に逆らえないっていうのは理解できる。僕は結構、変若水の研究について割り切りというか、諦めが意外とついているんですよ。
「………そうか」
『何かあったら言ってくださいね。そりゃ、組長補佐なので出来ることは限られてますが』
「いや、頼りにしてるよ」
『はい。期待に応えてみせます』
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