朝。まだ睡眠を貪ろうとする頭をどうにか起こして井戸へと向かう。昨夜は僕の入隊祝いだとかで沢山お酒を飲んだ。嬉しかったけれど、この頭の痛みはどうにかならないものか。それに広間に雑魚寝していたからか身体の節々が痛い。
『…ふぅ』
冷たい水を浴びてすっきりした。気持ちを引き締めるのにもやっぱり冷水を浴びるのが一番だ。持ってきた手拭で顔についた水を取っているところで青髪の青年に声をかけられた。えっと、昨日自己紹介してもらったな。名前は…稲田鉄之助だったか?
『おはよう、稲田』
「あぁ、おはよう。……って稲田って誰だ!俺は井吹龍之介だ!」
『ごめんごめん、名前覚えてなくってさ。井吹龍之介ね。よし、覚えた』
「ったく…」
それで、井吹は何しに来たの。顔を洗いに来たわけじゃなさそうだけど。そう尋ねてみると彼は芹沢さんに言われて水を汲みに来たという。芹沢さんと言えば浪士組事実上の一番上に立つ人間だと聞いた。まだ挨拶出来てなかったなと考える。浪士組に入る以上、名乗りもしないのは失礼だろう。
『今ならその芹沢さんに会えるか?挨拶しておきたいんだけど』
「……今、芹沢さんは二日酔いで機嫌が超絶悪いぞ。鉄扇が飛んでくるのは必須だな」
『昨日いなかっただろ?』
「島原だよ」
どうやら我らが局長は女好きらしい。毎晩のように島原に行っているって。近藤さんは僕たちと共に同じご飯を食べていたというのに。近藤さんだって局長のはずだろ?なのに、何故。
納得できないって顔に書いてあったらしい。井吹が、芹沢さんは多分隊士が一人増えたくらいどうでも良いと思ってるぞ、なんて後押しする。浪士組の局長なのに隊の中のことにはまるで興味がない、それが芹沢鴨という人物らしい。
「じゃあ俺はもう行くぞ。あまり遅いと怒られるしな」
『引き留めて悪かった』
井吹龍之介、彼もまた変な位置にいるという。浪士組にいながら、隊士ではない。武士であるけれど刀を扱えるわけではない。話によると間者ではないらいしいが注意しておく必要はありそうだ。
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