それからも今まで通りの生活だった。近藤さんも土方さんも山南さんもはじめ組長も皆僕を男として扱ってくれる。何一つ変わらない。

夜になるのだけは億劫になった。時々、芹沢さんに呼び出されるのだ。彼が島原に行かない日は毎夜と言っていいほど呼び出される。僕は黙ってもらう為に従うしかない。もう何も感じなくなっていた。汚いとか穢れたとか、それでも皆は受け止めてくれるって信じてた。



「今井君」

『…新見さん、どうされましたか』

「君は随分はしたない声をあげるようですね」



ばれた。目を見開いて新見さんを見る。彼は何を求めている、何が目的だ。冷静になれ、そう頭で命令しているのに心臓は煩いくらいに飛び跳ねていた。



『…っ、何の、ことでしょう』

「とぼけなくても良いのですよ。先ほどまで何をしていたか知っていますから」



黙っている代わりに君に協力してもらいたい。そんな酷い台詞を吐き出した新見さんを睨み付ける。どうしよう、どうすれば良い。僕が女であることは誰にもばれちゃいけなかったのに。よりによってこの人に気付かれてしまうとは。

捕まれた腕が痛い。逃げられないように強く握っているのだろう。そんなことしなくても僕には逃げ場なんてないのに。逃げ道なんて僕にはない。誰かにばれたら切腹だ、そう言った土方さんの言葉が反響する。そうだ、僕はもう死ななければならない。浪士組隊士でいられない。



『……何をすれば、良いのですか』

「なに、簡単なことですよ。薬を飲んで頂きたいだけです。改良した変若水の成果を見る為に、ひいては浪士組の為に」



項垂れた僕を嘲笑うように新見さんは言う。僕にあんな化け物になれと言うのか。簡単に死なない血を求める羅刹になれ、と。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。あんなものに僕はなりたくない。僕は人間だ。化け物になんかなりたくない。



「成功していれば理性を保ったままあの驚異的な力を手に入れられるのですよ。素晴らしいじゃないですか」



確かに羅刹の力さえあれば、誰にも力で負けたりしない。だけどその代償はあまりにも大きいじゃないか。まだ完成もしていない薬を飲むだなんて。

背中に嫌な汗が流れる。頭を必死に動かすのに良い断り方が見つからない。いや、そもそも断れるのか。断ったところでどうせ死ぬのは変わらない。それならば少しくらい皆の役に立って死ぬのも良いのではないか。



『…僕、はっ………』





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