井吹と共に芹沢さんの所へ行き、酒が買えなかった経緯を話すと大激怒。怒り狂って酒屋に火でも付けようかばかりの勢いだったから僕と井吹で必死に抑えて。鉄扇も喰らいながらどうにか怒りは収まったらしい。怒鳴り散らすのが収まった。
「…貴様、今井と言ったか」
『はい。僕は今井八重です』
「そうか。犬、この部屋から出て行け。浪士組隊士がついていながら酒屋に馬鹿にされるなど此の者に説教せねばならん」
「いや、でも…」
「早く出て行け!」
「わっ、わるい…!」
謝りながら出て行った井吹。さて芹沢さんと二人となったが何をされるのやら。先ほどの鉄扇もなかなか痛かったし、丸腰じゃやってられない。峰打ちくらいなら許されるかと刀に手をかけた時だった。芹沢さんが鋭く冷たい声で言った。
「…貴様は女だな。何故こんなところにいる」
何を言われているか分からなかった。目を大きく見開いた僕を見て芹沢さんが確信を得たようだった。
『…ど、して…僕は………』
僕は男だ、そう言おうとした言葉は喉を通らなかった。ずっと男として育てられて来た。父が死ぬまでずっと男だった僕は女になんかなれなくて。父が望む武士になれても、母が望む普通の娘にはなれなかった。
「土方たちが気付かないからと、この俺も騙せると思ったか?まだまだ甘い」
どうしよう、このままじゃ浪士組にいられなくなってしまう。女人禁制の浪士組の僕の立場が消えてしまう。近藤さんの為、試衛館の皆と共に戦うなんて以ての外になってしまう。僕の居場所は此処しかないのに。
芹沢さんに懇願する。どうか、どうか誰にも言わないで。お願いだから、僕から浪士組を取りあげないで。
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