”俺だって…お前のこと好きなんだよ”
そんなありきたりの言葉を告げて、梓くんの演じるキャラクターはヒロインを抱きしめた。
『あーあ、私だったら主人公よりこっちのほうが好きなんだけどな』
アニメを観ている私はそう呟いた。そもそもこのアニメは原作の少女漫画がヒットしてアニメ化になったもの。私は原作の漫画を読んでいるから、この先どうなるかは知っている。
「名前、何観てるの………ってあぁ、今クール話題の」
『梓くんが出てるやつ。ヒロインとは結ばれないけど』
「そっか。名前は原作を知ってるんだっけ」
『うん。原作の頃から梓くんが演じてるキャラクターのほうが好きだったから少し複雑かも』
「………ねぇ、俺だって名前のこと好きなんだよ」
そっと抱きしめられたと思えば、先程アニメのキャラクターの言葉を吐く。声色が変わって、まるでそのキャラクターに囁かれているのかと錯覚してしまう。
ぎゅっと抱きしめ返して私は、梓くんが好きなんだけどな、と呟いた。そうすれば甘いキスが降ってきて。
『んっ…んぁ、ふっ……』
「ふふっ、かわいい」
梓くんが満足するまで唇は開放されなかった。
『……もぅ、梓くんったら』
「たまにはいいでしょ?こういうのも」
『私には甘すぎるよ……』
「いいじゃない。照れてる君も可愛いし」
バカ。なんて呟いたところで梓くんは嬉しそうに笑うだけだ。他の誰も見れないその表情に、たまにはいいか、なんて思ってしまった。
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