「あれ、どうしたのその頬」
朝日奈家。リビングに行けば誰かしらと話ができる。今は梓君だけみたいだけど。早速、赤くなった頬を指摘された。よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに私は梓君の隣に腰掛けて。
『梓君、聞いてよ。さっきさ…』
ウインドウショッピングから帰ってきた私は普通にマンションに入るはずだった。知らないお姉さまに声をかけられるまでは。
まぁ、よくあるアレだ。女のマウンティング?あなた、要の何なのよ!と言われるのは何度目って感じだったけど、叩かれたのは初めて。で、そうこうしている間に名前ちゃんどうしたのー?なんてへらへら笑って来るものだから堪忍袋の緒が切れたというか。
『もう!要!私と付き合うときに過去の女みんな切るって約束したよね!守れてないじゃん!別れる!!』
それだけ言い放って、私はマンションに戻ってきて、梓くんに話を聞いてもらっている、というわけ。…なんだか、スッキリしてきた。
「へぇ。それで別れるの?」
『別れたの!』
「…かな兄、それ別れたって思ってないと思うけど」
『もう知らないもん!あんな女ったらし!!』
女癖が悪いことは分かっていた。けど、ちゃんと切るって言うのを信じたのだ。だけどちゃんと切れていなかった。要と一緒にいる限り、こんな想いをするくらいなら一緒にいる事はできない。
「へぇ。じゃあ、かな兄なんてやめて僕にする?」
どう?結構いい物件だと思うんだけど。なんて首をかしげながら聞く梓君は流し目で色気が漂っている。どうしようかな、と検討を初めた頃だった。焦るように私の名前を呼ぶ声が聞こえたことにより思考が遮られた。
「名前ちゃん!」
『……何ですか。要さん。今、梓君と話しているんですけど』
「かな兄と別れたって言うから口説いてたんだ。弟の恋路を邪魔するなんて酷いな」
「あれは別れたなんて言わないよね。俺は名前ちゃんと別れたなんて思ってない」
そんなの知らないもん。もう要なんて知らないもん。
どうして要と付き合っているというだけで知らない女から詰めかけられないといけないんだ。どうして知らない女から打たれないといけないんだ。ぷい、と彼の方を一つも見ずに梓君の方を見たまま話すのが気に食わなかったらしい。腕を取られ、そのまま要に引きずられるようにしてリビングを後にした。
『………何するんですか、離してください』
「ごめん。ごめん、名前ちゃん」
ぎゅうと痛いくらいに抱きしめられる。私はただ無抵抗で要のされるがままの状態。俺のせいでごめんね、と頬を撫でられる。少し腫れて熱くなっていた箇所に要の冷たい手が気持ち良い。
『……反省、しましたか』
「うん。弟に取られちゃうんじゃないかって焦ったよ。ごめんね。だからお願い、別れるなんて言わないで」
『ごめんなさい。私もカッとなって言っちゃったんです。要と別れたいなんて嘘』
よかったぁ、と情けない声を出す要。すとんと落ちていた腕を要の背にまわして、ぎゅっとすればさらに力強く抱きしめてくれる。そのまま顔を上げたら要と視線が合って自然と唇が重なった。
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