棗と出会ったのは約半年前。桜の咲く頃、入社式で出会ったのが始まりだ。気の合う同期として仲良く、お互いの家に泊まることは珍しくなかった。だけど、今まで一度もそういう風に触れ合ったことはなかった。そんな雰囲気になったことなんてなかった。なのに。
一緒にご飯を食べて、お酒を飲んで、映画を見たりして。寝る布団はもちろん別々だったし、キスすら…手を握る、なんてことすらしていなかったのに。
それなのに今日は。棗の部屋で、二人でお酒を飲みながらソファで映画を見ていたら棗が急にキスをしてきた。
『…は?』
なんて間抜けな声だろう。完全に不意打ちだった。私の了承なんて関係ないと言ったように。
「……なぁ、抱いていいか?」
『なんで?嫌だよ、彼氏じゃないじゃん』
「セックスしても変わらないだろ?」
『変わるよ。私は今のままでいたい。変わりたくない』
「大丈夫だ。変わらないから」
棗は前から私のことを好きだった、なんてことはあり得ない。むしろ私のほうが男として棗のことを好きだった。付き合いたいというわけじゃないけれど、普通の友達よりも少しキュンとして、じゃれ合いながら一緒に遊ぶ時間が心地よかった。
なぜ急にキスをしたのか?なんて理由は一つだけ。単純に今、棗がそういう気分だから。それだけだ。あーあ。バカだなぁ。そんなこと誰とでもできるのに。それもたった数十分で。でも、友情も愛情も信頼もそんな短い時間じゃ築けないのに。
まぁ、私も心地の良い友達としていたし、不純だったっていうのはわかってる。でも、たった30分くらいで崩したくないと思うくらいには大切にしたかった。
「なぁ、いいか?」
でも、棗にとってはそんなもの、どうでもよかったんだね。
『…いいよ』
その一言を合図に彼の手が私の服の中に入ってきた。
女は一夜を過ごした相手を好きになる、なんて勘違いしないでほしい。だって今、こんなにも冷静なんだから。心に芽生えかけていた恋心が摘み取られ、業務的に動くだけ。あぁ、これから彼との関係はどうなってしまうのだろうか。棗が言ったように、今まで通りなんてことあり得ないのだ。だって少なくとも私は変わってしまう。今まで通り、なんて私はそんな器用じゃない。
多分、棗は私の密かな恋心に気付いてた。それを利用したのだ。今更、男の部屋に一人で泊まっておいて被害者ヅラするわけないけれど。好きだった、のにな。
ベッドの下で脱ぎ散らかされた服の中から下着を見つけ出して、身につける。…うわ、気持ち悪い。勝手にシャワーを借りちゃおう。あははっ、私、何してんだろう…、と乾いた笑い声がシャワーから出てタイルに落ちていく水音に消されていった。
服を来て部屋を見てみると棗が起きたらしい。勝手にシャワー借りたからね、あぁ問題ない。っとそれよりも、何か食べるか?
『………棗が作ったオムライス』
私はこれが一番好きだった。お酒のツマミとしていろいろ作ってくれる棗だけど、私はオムライスが一番好きだった。もう、きっと、食べることはないけれど。そう思うと胸がチクリと傷んだ気がした。
一緒にご飯を食べて、お酒を飲んで、映画を見たりして。寝る布団はもちろん別々だったし、キスすら…手を握る、なんてことすらしていなかったのに。
それなのに今日は。棗の部屋で、二人でお酒を飲みながらソファで映画を見ていたら棗が急にキスをしてきた。
『…は?』
なんて間抜けな声だろう。完全に不意打ちだった。私の了承なんて関係ないと言ったように。
「……なぁ、抱いていいか?」
『なんで?嫌だよ、彼氏じゃないじゃん』
「セックスしても変わらないだろ?」
『変わるよ。私は今のままでいたい。変わりたくない』
「大丈夫だ。変わらないから」
棗は前から私のことを好きだった、なんてことはあり得ない。むしろ私のほうが男として棗のことを好きだった。付き合いたいというわけじゃないけれど、普通の友達よりも少しキュンとして、じゃれ合いながら一緒に遊ぶ時間が心地よかった。
なぜ急にキスをしたのか?なんて理由は一つだけ。単純に今、棗がそういう気分だから。それだけだ。あーあ。バカだなぁ。そんなこと誰とでもできるのに。それもたった数十分で。でも、友情も愛情も信頼もそんな短い時間じゃ築けないのに。
まぁ、私も心地の良い友達としていたし、不純だったっていうのはわかってる。でも、たった30分くらいで崩したくないと思うくらいには大切にしたかった。
「なぁ、いいか?」
でも、棗にとってはそんなもの、どうでもよかったんだね。
『…いいよ』
その一言を合図に彼の手が私の服の中に入ってきた。
女は一夜を過ごした相手を好きになる、なんて勘違いしないでほしい。だって今、こんなにも冷静なんだから。心に芽生えかけていた恋心が摘み取られ、業務的に動くだけ。あぁ、これから彼との関係はどうなってしまうのだろうか。棗が言ったように、今まで通りなんてことあり得ないのだ。だって少なくとも私は変わってしまう。今まで通り、なんて私はそんな器用じゃない。
多分、棗は私の密かな恋心に気付いてた。それを利用したのだ。今更、男の部屋に一人で泊まっておいて被害者ヅラするわけないけれど。好きだった、のにな。
ベッドの下で脱ぎ散らかされた服の中から下着を見つけ出して、身につける。…うわ、気持ち悪い。勝手にシャワーを借りちゃおう。あははっ、私、何してんだろう…、と乾いた笑い声がシャワーから出てタイルに落ちていく水音に消されていった。
服を来て部屋を見てみると棗が起きたらしい。勝手にシャワー借りたからね、あぁ問題ない。っとそれよりも、何か食べるか?
『………棗が作ったオムライス』
私はこれが一番好きだった。お酒のツマミとしていろいろ作ってくれる棗だけど、私はオムライスが一番好きだった。もう、きっと、食べることはないけれど。そう思うと胸がチクリと傷んだ気がした。
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