その日は椿君が私の部屋に来ていて。ちょっとだけ台本読んで良いかって言うものだから、私も静かにしていようと梓君から借りた小説を読んでいた。
「名前、何舐めてんの?」
『絵麻にもらった飴。コンビニで期間限定のやつが売ってたから買っちゃったって。おすそ分けしてくれたの』
「えー、俺には?」
『1個しかもらってないからありませんー』
べ、と飴を落とさないように舌を出す。歯に当たって音を立てる飴を噛まないように気をつけながら期間限定のその味を味わう。うん、美味しい。私も同じの買おうかな。完全に意識は椿君から離れていた。無防備になっていた私と椿君の距離はあっという間に0になって。唇が抉じ開けられて舌が捩じ込まれる。
『んんっ、んー!』
何するの!と抗議の言葉は全て椿君の口の中に吸い込まれて。舐めている飴のおかげでいつもより何倍も甘い口づけを味わった。
結局、飴を舐めきるまで唇は開放されなくて。飴と共に舌も溶けちゃうんじゃないかって、混じり合ってどっちのものか分からない唾液を呑み込んだ。
「ごちそーさま、名前」
ちゅ、と触れるだけのキス。それで許しちゃうからいけないんだよなぁ。でも笑ってる椿君かわいいし。椿君とのキスが嫌とかいうわけじゃないし。
『…椿君、確信犯でしょ』
「なんのことー?」
わざとらしく首をかしげる椿君。もう可愛すぎるからやめてほしい。顔が良いからってそれを十分に活用するの良くない、私の心臓に。
『台本はもう良いの?』
「だいじょーぶ!今から名前に構う時間★」
ぎゅーっと抱きしめられて。最初に仕事を持ち出したのは自分の癖に、なんて心の中で悪態をつくけれど椿君にはお見通しで。簡単に私は彼に転がされてしまうのだ。
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