好きにさせてもらった七日め

昨日、私がいないと屯所の中はちょっとした混乱が起こったらしい。私だって知らない間に誘拐されて好き勝手に身体を弄ばれたのだけれど、気が付いたら屯所の空き部屋で寝ていた。どうにか千鶴ちゃんはうまいこと宥めたけれど、他が大変だった。土方さんから雷落とされるし、総司くんなんか怖い笑顔を向けてくるし、とにかく大変だった。特にね、斎藤くんはなかなか自分の不機嫌を認めないから大変だったことを記しておこうと思う。

さて今日でお休みが終わるわけだけどどうしようか。聞いてみたら千鶴ちゃんも今日はゆっくりしてて良いと言われたらしい。土方さん分かってるー!千鶴ちゃんという最強の子を手に入れた私は二人でゆっくり歩こうかと思案する。千鶴ちゃんは誰かいないと駄目じゃないかな、と言っていたけれど土方さんに町行ってきますと言ったから大丈夫だ。本人に聞こえているかどうかはともかく。

今までたいして使っていなかった微かな賃金を持って町へ繰り出した。団子を食べたり、この野菜安いね、などと言いながら特に目的もなく歩いていく。そうしていたら丁度、巡察中だったらしい原田さんが歩いてくるのが見えた。



「お疲れ様です」

「千鶴に京香じゃねぇか。二人だけか?」

『うん。女子二人で歩くのも大切なの!』

「土方さんにはちゃんと言ったんだろうな」

『言った。聞いたかどうかは知らない』

「それを言ってないって言うんだよ…。仕方ねぇから俺がうまいこと言っといてやるよ。あまり遅くまで歩き回るんじゃねーぞ」



やっぱり原田さんはいい男だ。私が気分転換に外に出たいことも、千鶴ちゃんが外に出て自由に父を探したいことも、分かった上で可能な範囲で叶えようとしてくれる。これだけ気配りが上手けりゃ、花街で人気なのも頷ける。



「あ、これ可愛い!」

『ほんとだ。可愛い。紅も最近はちゃんと塗ってないなぁ…』



………あ。いいこと考えた。隣にいる千鶴ちゃん変身大作戦だ。千鶴ちゃんが可愛いと言っていた艶紅を購入して屯所に戻る。どうやら土方さんは私たちがいなかたったことに気付いていないらしい。もしかしたら原田さんが既に口利きしてくれているのかもしれないけれど。とにかく怒られなかったのは良かった。そのまま私の部屋に千鶴ちゃんを連れて行き、私と対面するように座らせた。



「京香ちゃん。どうしたの?」

『千鶴ちゃん、お姉さんと良いことしようか』



京香ちゃん怖いよ…?なんて聞こえない聞こえない。千鶴ちゃんは若いから化粧は必要ないかもしれないけれど、と思いながら綺麗な肌に化粧を伸ばしていく。私も屯所に来てからは紅を時々引くくらいだった。怒られないかな、という千鶴ちゃんに部屋から出なければ大丈夫!と雑談を交えながら整えていく。男装しててもこんなに可愛いなんて。羨ましい。



『…できた!目あけて良いよ』

「……うわぁ!すごい!」

『千鶴ちゃん元が良いから、やっぱり化粧しても可愛いー!』



可愛い可愛いと言い過ぎたらしい。何、騒いでるの、と総司くんと斎藤くんが部屋にやってきた。見て見て、可愛い!とはしゃぐ私の横で恥ずかしい…と縮こまる千鶴ちゃん。その仕草も可愛らしい。



「千鶴ちゃん可愛いね」

「…そうだな。部屋から出ないのならば問題はないだろう」

「あ、ありがとうございます!」

『斎藤くんも化粧する?』

「…俺は男だが」

「京香ちゃん。僕は?」

『斎藤くんの方が似合いそうだもん。総司くんはちょっと難しいよ』



そうしていたら平助くんもやって来て。真っ赤になった平助くんは化粧しなくても可愛いなと思いました。揶揄い対象を平助くんに移した総司くんは調子が良さそうで。



「…なんだぁ、この部屋。いつの間に大所帯になったんだ」

『原田さん、巡察お疲れ様です』

「お、千鶴、化粧してんのか。可愛いじゃねぇか」

「あ、ありがとうございます」

「お、俺も可愛いって言いたかったんだ…」

「なーに、平助。もう一度大きな声で言ってあげなよ」

「総司。あんたは早く布団に戻ってはどうだ。副長が心配しておられたぞ」

「…大丈夫みたいだよ。あっちから来てくれるみたいだし」



この足音はまさかと総司くんの顔を見ると当たり、と書いてあった。逃げたいけれど出入口は大柄な男たちで塞がれていて、私も怒られる組に強制参加らしい。



「ってめぇらいい加減にしやがれ!騒ぎすぎだ!!」



土方さんの雷が落ちて。確かに始まりは私だったかもしれないけれど、そこから騒がしくなったのは私の責任じゃないもん。ま、土方さんの怒りは総司くんが千鶴ちゃんを生贄に差し出し始めたあたりで大分収まったからよかったけど、しっかり絞られました。はぁ、疲れた。そうして各自大人しく部屋に戻るように言われたので素直に従って部屋に戻ろうとしていたらまるで打ち合わせたかのように一人ずつ耳打ちで今夜の約束を取り付けてきた。



「京香。今夜、お前の部屋に行く」

「…ね、京香ちゃん。今夜どう?」

「今晩、あんたの部屋に行っても良いだろうか」

「夜勤が終わったら京香の部屋に行っても良いか…?」

「京香も今夜化粧してくれよ。な?いいだろ?」



土方さん、総司くん、斎藤くん、平助くん、原田さん。誰にするか悩んでしまう。それより、どうやって断ろうか。もうすぐ夕餉だ。時間がない。今のが約束だなんて思えないけれど、彼らは絶対に私の部屋を訪ねる。どうにかしなければ。あぁ、どうしよう。そう思いながらも口角が上に上がっていたらしい、千鶴ちゃんに何かあった?なんて聞かれてしまった私は気付いてしまった。今の関係を楽しんでいることに。私は皆の共有財産。私は皆のもの。だけど、私もこの関係を楽しんでいるのだ。



『ううん、何でもない。今日は一緒に寝よっか』



千鶴ちゃんと一緒に寝ると言えば断りやすいし。皆が私の部屋の前でばったり、なんて最悪な状況は避けられるだろう。数日後、あっさり皆との関係がばれてしまうのだけれど、それはまた別のお話。





千鶴ちゃんと好きにさせてもらった七日め






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