「なぁ休、頼みがあるんだけど」
突然真剣な顔で自分の前に現れた弟に馬休は「何?」と笑顔で返す。
すると馬鉄は馬休の前に包みを突き出した。


「……何これ?」
キレイに折り畳まれた包み布を開くと、淡い桃色の衣服が中にあった。いや…これを衣服と言ってもいいのだろうか?
衣を広げるとそれはエプロンだった。フリルがとても愛らしい。


……じゃなくて

「まさか頼みって、これを僕に着ろってこと…じゃないよね?」
「流石休っ、話が早く…ぐわっ…」
「冗談キツすぎ。頭冷やしてきた方がいいよ」
馬休は包み布とエプロンを馬鉄に押し返し馬鉄の前から去った。






・・・・・・




「まぁ大体予想通りだけどね」
結果報告を聞くために部屋で待っていた馬岱は口を尖らせている馬鉄の肩を叩く。

「鉄が全部責任とるなら、力ずく…ってのもありだよ?」
「ん…でも休本気で怒ると怖いんだよな…」
「実は従兄上に着させる方が楽だったりして」
「うげぇ……みたくねぇ…」

顔を歪ませる馬鉄に反し、馬岱は「割と似合うかもしれないよ?」と言った。




エプロンは馬岱が諸葛亮から貰ったもので、白と桃の二色ある。どうせなら…ということで、馬岱はその一枚を馬鉄に渡した。
対象者に裸エプロンをやらせるのが目的である。


正しく漢の浪漫。


「でも俺…別に休がいやなら、裸じゃなくてm「っ何を言ってるんだ鉄!裸じゃなきゃ意味ないだろう!?折角これを下さった丞相に失礼じゃないか」

(しかし普通にでも着衣してくれないと言うのに裸でこれを着てくれるのか?)

絶対自分では纏いたくない可愛らしい布を人差し指と親指でつまみながら馬鉄は思った。




「あれ?岱きてたんだ?」
「っ……休」
誰か来たかと思えば、今話題になっていたこの部屋の主の片割れである馬休だった。馬休の視線はすぐに馬岱と馬鉄の手元に向けられる。

「………そのエプロン……。あぁ、やっぱり岱が用意したんだ。本当にいい趣味してるね」
「従兄上に誉められ光栄です」
笑顔と笑顔で会話する二人の間で馬鉄はため息をつく。どちらも明らかに本音ではないことが馬鉄でさえもわかってしまった。

しかしその会話の中で馬休は表情を変える。
「でも鉄が着て欲しいっていうなら僕着てもいいかな?…って思ったんだよね」
「ほっ…本当に?」
「僕が着る前に鉄が着てくれたら…ね。一人だけだと不公平だろ」
「…っじゃあ俺が裸で着たら、休も裸で着てくれるってことか?」
流石に今の発言は退かれるかと思ったが、馬休はその言葉にも笑顔で頷いた。

「よしっ、じゃあ俺「ちょっと待て鉄」
腰のベルトに手をかけた馬鉄を止め、馬岱は馬休をみつめる。

「先に休が着るんだ。どうしても君には着ようとする意志が感じられない」
そう言われると馬休は「あーぁ…」と声を漏らす。


「………うーん、バレちゃったか」
「昔から何回一緒に鉄を騙してると思ってるんだよ」
「それもそうだね。でも岱も空気読んで黙ってればいいのに」
馬岱が言った理由は一つ。
休が着てるところは見てみたいが、鉄が着ているところは別に見たくないからだ。

「でも、休は着ると言ったよね。ここは約束を守って着てもらおうか」
「………岱?」
迫り来る一つの影。
それが恐ろしく馬休は2歩程引いた。

「鉄、俺が押さえてやるから、後は宜しく。」
「了解っ。…騙そうとした休が悪いんだからな」

馬休の前に影がもう一つ増えた。

馬鉄は別に無理やり着させるのだったら別に見なくてもいいと思っていた。しかし休が自分を騙そうとしていたなら話は別である。

(休が頭を使って着させようとするのと、俺が力を使って着させるのは同じじゃないか)




「っ…ぁ…鉄やめてっ……」
腰紐を解き、先ずは羽織を脱がせる。激しく抵抗しているが流石に両手を押さえられている為、まるで動かない。
「岱もいい加減にしろよっ」
「鉄、口塞いでもいいか?このままだったら廊下にきこえる」
「手でなら…いいんじゃないか?」
そう言われた馬岱は「了解」と言って右手で馬休の口を塞ぐ。


「ん…んぅ……!!」


その直後、苦しそうな馬休の声が聞こえ履物を脱がせていた馬鉄は馬休の顔をみた。
そして手の動きが止まる。



「…なぁ岱……やっぱり止めようぜ…」

兄の目尻からは涙がこぼれている。
間違いなく泣かせているのは自分だ…

そう思うと心が痛かった。


「別に強姦するわけじゃないんだから大丈夫だって。小さい頃から今まで互いに裸見せ合ってるわけだし……それに」



ウソ泣きだから――――

その一言で馬休の動きが止まる。
そして目が馬岱に何かを訴えた。

それは明らかに「余計なこと言うな」…というような目である。


「………」
「……鉄、さっさと身ぐるみ剥いじゃえばいいよ」


馬鉄に迷いは無くなった。
迷いさえなくなれば行動は早いもので、全部脱がせるのに1分もかからなかった。

あとは桃色のエプロンを着せれば任務達成(ミッションコンプリート)

しかしというかなんというか…あまり良い光景ではない。
どう考えても、傍から見れば犯罪である。

もしこんなところに兄貴がきたら…



「休、本持って来たぞ。何処に置けばい…」







兄貴が来たら確実に説教は避けられない。
というか殺されるかもしれない。


「「…………」」
「…………」






凍りついた空気は次の瞬間一気に爆発した。







・・・・・・・・・・






「大丈夫か?」
「う……うん。あの……兄様…鉄たちも悪ふざけで…」
「あれが悪ふざけで済むかっ!!」
馬休の涙を親指で拭ってやり、馬超は正座をしている馬岱・馬鉄の前に立ちはだかった。
腕を組みをしてオーラを出しながら立つその姿から察するに、相当怒っている。
それはそうだ。

「…………本当に下らぬ奴らだ。……そんな事に体力を使う暇があったら鍛練をしろ」
「…………はい」
素直に謝る馬鉄の横で馬岱は“しまった…”と顔を歪める。
というのは、馬休が後ろで僅かに口元を吊り上げていたからだ。

(従兄上が来るように最初から仕組んでいた…って事か)
馬超は馬休に頼まれ本をこの部屋に持ってきた。
恐らく鉄がエプロンを着てほしいと頼んだ時から、この事を想定していたのだろう。

昔、二人で鉄を騙していながらも、休は一人怒られなかったことが多かった。

すっかり忘れていた。
俺は鉄を騙し笑っているのだが、休は鉄を騙すのに加えて、俺が怒られているのを見て二度笑っていた事を。

鉄ではないが、やはり休には敵わないな……と馬岱は溜め息をつく。
が、どうやらこれで終わりではないようだ。


「兄様……岱たちは僕にコレを着せようとしただけなんだ……。だからそんなに怒らなくても」
馬休が手にしているのは、先ほどまで馬鉄が持っていたフリルがとても愛らしいエプロン。
それをみて馬超は目を細めエプロンと馬岱たちを交互に見る。

無論二人は嫌な予感がした。


「ほぉ…とても可愛いな。しかし俺は休よりお前たち二人が着た方が宴のネタになると思うのだが?」
「「……………」」



「脱げ」
馬超は低い声で二人に言う。
まぁ…宴のネタでは無いことくらいわかっているのだろう。

「ちょ…ちょっと待てよ兄貴っ……それ別に宴のネタで着せようとしたわけじゃ……」
「宴のネタではなかったらなんなんだ?」
「それはですね、鉄は純粋に休に着せたかっただけなんですよ。ほら休可愛いから」
間髪入れず馬岱は馬超に言う。こう言えば矛先は確実に鉄に向けられる。

しかし口にしてから“しまった…”と馬岱は思った。

「それでこっちの白いほうは岱が従兄上に着させるつもりだったんだって。…僕はともかく兄様に着させようだなんて、岱って本当にすごいよね」
眉毛をハの字にしながら馬休は机の上にある白いエプロンを馬超に渡した。
そして馬岱を見て口を動かす。

声に出してはいないが、その口の動きでなんと言っているか大体わかった。


――まだまだこれから…


意味は全くわからなかったが、何か嫌な予感がする。
休の牙が完全に自分に向けられている事にどうして気付かなかったのだろうか。
今鉄をはめようとすればするほど今の自分の立場を悪くする。

「俺にこれを?それは凄いな。」
「従兄上、冗談に決まっているでしょう。そんな始めから無理だとわかっていること岱はしませんよ」
とりあえず今は自分が着ろと言われているこの状況を何とかしなければならない。
どうすれば言いか考えているとこの部屋に向かって更に足音が近づいてきた。



「馬休殿、失礼します。頼まれていた物がみつかりましたので持ってきましたよ」
「っ……!!?」
馬岱は思いがけない人物の登場に思わず息をのむ。

「どうしたのですか?……って、なんですそのエプロンは」
「岱や鉄がこれを馬休に着せようと、無理やり身包みを剥いでいるのをみつけて、説教していたんだ……」
「無理やりこれを……それは酷いですね」
趙雲は二人に冷たい眼差しを向けた。

「………貴公ならどうする?」
「私なら…二人を同じ目に合わせますよ」
少し笑いながら趙雲は馬岱を見る。
更にその後ろで馬休が笑っていた。

(やられた……)
趙雲がこのタイミングで来たのも休の計画どおり…というわけだ。
俺と折合いが悪い趙雲を呼ぶ事により大体どんな流れになるか誰にでも容易にわかる。




「さて趙雲殿、先ほどと同じ状況と…というのなら少々手伝ってもらいたいのだが。」
「なんでも仰ってください。いくらでも手伝います」
馬超は趙雲の耳元で先ほどの状況を話す。

「兄様、鉄は僕一人で剥いじゃうからお二人は岱をどうぞ」
「一人で大丈夫か?」
すると馬休は「多分鉄は素直にきいてくれるから」と言った。
馬超はそれに納得し、馬岱の方を見る。

「ちょっと待ってくださいよっ!従兄上は休に騙されてるんだっ。これは全部…」
「往生際が悪いぞ岱?それならお前と鉄が休を押し倒していたのも休の策だというのか?」


「…っ……そ、それは…」

「趙雲殿は手と口を頼む。不本意だが脱がせるのは俺がやろう。今更裸をみられても困る輩など、ここにはいないから容赦なく剥ぐぞ」

馬岱はあまり体を見られるのが好きではなかった。
それは体中に痛々しい傷が残っているから。
しかし、ここにいる者は皆それを知っている。


「っ…止めろっくるなっ!!」
「馬岱殿、自業自得ですよ」

馬超の合図と共に趙雲は馬岱の両手を掴み床に押さえ込む。
そして馬超が倒された馬岱の上に跨った。




「さて、鉄は自分で脱ぐ?僕に脱がされたい?」
「どうせどっちにしても脱がなきゃいけないんだろ?…だったら自分で脱ぐ」
そう言って馬鉄は素直に自分の服を脱ぎ始めた。

「………なんか岱可哀想だな」
服を全て脱ぎ、馬休から受け取ったエプロンを纏いながら馬鉄は呟く。
「鉄だってさっき僕に同じ事してたじゃないか」
「ホントごめん……」


フリルが施されたエプロンだけを身に纏った馬鉄を見て馬休は思わず笑ってしまう。

それに対し馬鉄は「はじめから似合わないのは分かってた事だろう」と顔を赤らめながら言うが、そういう意味で笑ったわけではない。

「以外と似合ってるよ。これだと岱も期待してもいいかな?」
「そうかぁ?」


今やっと身包み剥がされた従兄弟を見ながら、馬鉄は微妙な表情をした。





END




え…なんだろうこれ。
某大型SNSのらぶコミュというアプリで馬兄弟を作って楽しんでるのですが、今回の追加アイテムで…なんと裸エプロンが…
本当に…本当にこの開発陣凄すぎ…
ユーザーの要望にこたえすぎだろ…と突っ込みと賛美を送りたいです。
そして思わずわけのわからない突発的な文を書いてしまった;

PICTに二人の画像をupしましたのでそちらもみていただけたら…と思います。

割と長くなってしまった;


20100528