行為を終え
共に寄り添って眠りにつく。

いつかこの当たり前の日々が
終焉を迎えることを心のすみで覚悟していた。

戦場の中心で戦っているのだ。
覚悟しない方がおかしい。


しかし


まさかこんな終わり方を迎えるなどと誰が想像していただろうか。

「………」
「今なんと?」

馬鉄は趙雲の問いに、もう一度目をそらして言う。

「…………終わりにしよう…って思ってさ」
「本気で言ってるのならば、きちんと私の目を見て言ってください」
「………」
それでも馬鉄は趙雲と目を合わせなかった。ということはそれは本心でないということがわかる。

では、何故?




「本当はただ…伝えたかっただけなんだ。……兄貴の近くにいる人に」


父上と自分の最期を……


「最期…?」
馬鉄の言っている意味がわからず趙雲は顔をしかめる。

「ほら、本人に直接見せて立ち直れないくらいショック受けたら困るだろ?」

初めはすぐに帰すつもりだった。しかし趙子龍という人物と出会い、交わっていく度にもっと一緒にいたい…と願うようになってしまった。





「でももう……兄貴に返さなくちゃ」

馬鉄は苦笑いしながら趙雲に近づき、指を絡め自ら唇を重ねる。そんな彼の目からは涙が溢れており塩辛い味が口に広がった。


「………叔戒?」
「兄貴と岱に伝えて欲しいんだ。休も父上も誰も守れなくてごめん…って。」


そう言うと馬鉄は絡めた指を離す。




その瞬間……










「―――――――っ!!?」

まるで自分の記憶かのように流れ込んできた映像。

一人の男が死を目の前にしていた。しかし男は全く恐れずただ一点を見つめ何かを話している。

その視線の先にいたのは曹操である。

そして気付けばその男の首は地に転がっていた。血が付着した剣を持った男が己に近づいてくる。


「最期に何か言い残すことはあるか?」
「………」
これからどうなるかわかっているというのに、この人物の視線が揺るぐ事はなかった。



そしてついに目の前で剣が振り上げられ




鈍い音とともに真っ暗になった。視界から全てが消えたあとぼんやりと人の姿が現れる。



(叔戒っ!??)

次第に遠ざかる彼は寂しそうに笑った。




まさか
これは…




(さよなら…子龍……)




叔戒の記憶…?






「―――――――っ!!」





趙雲は腕を伸ばし消え行く愛しき者の手を掴もうとした。
しかし、それは空を切ってしまう。






「…………!?」

気付けば寝台の上だった。

「………馬…超?」

ふと横をみると顔面蒼白状態の馬超がいた。

「あの、どうかしましたか?」
うっすら浮かべていた涙は次第に大粒になり彼はそのまま趙雲に強く抱きつく。

「馬鹿者っ!いつまで寝てたんだ………っ」
「…どのくらい寝てたのですか?」
「3ヶ月だ。突然倒れて驚いたのだぞ!!」


3ヶ月?
まさかとは思うが

「あの馬超、叔戒はどこにいますか??」
その名前を出すと馬超は目を見開く。

「だっ、誰の事だ?“しゅくかい”とは」
「何をとぼけてるのですか。貴方の弟でしょう」
そう言うと馬超は下唇を噛み締める。そして今まで見たことのない悪鬼の形相で趙雲を罵倒した。






「人を馬鹿にするのも大概にしろっ!!鉄たちは3年前に曹操に殺されたんだ!!」






…やはり、あれは



「……馬超…、馬岱殿を呼んできてくれませんか?」


夢だったのだ。



しかしただの夢ではない…


自分たちの最期を伝えたかった彼が見せた強い思い。




馬岱が来ると、趙雲は先ほど見た馬鉄の記憶を彼らに伝えた。
死を眼前にしても恐れず立派に散った涼州武人の最期を…。




「……何を…バカなことを言っている」
「…わたしも信じられませんよ」

でも、わたしは知らないはずなのに知っている。

馬超に似ているが隙だらけで純粋で自分の感情を常に剥き出しにして




そして、誰よりも私を惹きつけた青年を……。







もし
再び出会えることがあるなら













その時は……――――