ごめんなさい従兄上。
貴方の大切な人を見捨て、独りで逃げてしまって。

あの時無理にでも鉄を馬に乗せれば良かったんだ。

俺が助かっても誰も喜びはしない。
















[あいつが1人生き残ったからってなんなんだ。馬騰の子じゃないんだろ]

[馬超もさっさとあんな奴の首斬っちまえばいいのに。同胞と言えど親兄弟を見捨てた奴だぜ?]

[何でも、他の奴らを騙して馬を奪って1人だけ逃げてきたらしいぞ]





「………」
馬岱は平然としながら男たちの間をあるく。
するとヒソヒソと話していた声は彼に向けて放たれた。

「よく馬超殿に顔向け出来るな。この恥知らず」

その言葉すら無視し馬岱はさらに進み、馬超のいる天幕へと足を進めた。





「………村を…襲う?」
天幕の中に入った馬岱に馬超は突然言った。

「ダメですっ。それでは賊と変わりないっ。考えなおして下さい」
「しかし兵糧が底を付いたのだ仕方あるまい」
「っそれでも……」
「………」
故郷を追い出され、兵も殆どいなくなり堕ちるところまで堕ちた。
だからと言って、賊に成り下がる程この心は腐ってはいない。
しかしわかっていた。
自分がどう批判しようと、これは決定されたこと。覆すことは出来ない。

次の日一つの村から断末魔が絶えず聞こえた。
それは全て罪無き民たちの音。


それが続けば、このやり方に納得がいかない者が出てくるのは必然的なことだ。


「……もうあんな奴にはついていけねぇよ」
「なぁみんなでどっかに下らねえか?」


知っている。
誰より強い貴方が
弱くなってしまった理由を。


知っている。
誰より優しい貴方が
こうなってしまった理由を。


知っている。
皆が寝静まった後、貴方が
独り嘆き苦しんでいる事を。






知っている。








全ては俺のせいだと言うことを。






馬岱は兵たちが寝ている天幕の側へと走った。右手には中身のない酒瓶、左手には血まみれの紐をそれぞれ握りしめ。


そして見張りをしている兵に近づいた。

「馬岱殿、どうなさいました?」
「……っ。……ははっ…何もかもうまくいきすぎて笑えると思わないか?」



「……酔って居られるのですか?」
見張りの兵はそういって眉間にシワを寄せた。
それはそうである、今この軍には人一人酔えるほどの酒があるとは到底思えない。

無論、酒は飲んではいない。
「っ……馬超も馬鹿だよな。俺の命令に何でも従ってさ。村を襲わせる事で、てめぇの信頼が堕ちてることにも気付かないしな。」
そういい高笑いする馬岱。

その声で天幕の中で寝ている兵たちは次々と目を覚ました。


「………なんだと?」
みな己の言葉を耳にして怒りを露わにしないはずがない。

だって俺は…

「……我々も危うく騙されるところだった」


本当は生き残ってはいけない立場だったのだから。
生きている…それだけで罪になる

それならばいっその事



天幕から出てきた男たちの手には武器が握られていた。それをみて馬岱はニヤリと笑う。







ごめんなさい従兄上。
貴方の大切な人を見捨て、独りで逃げてしまって。

あの時無理にでも鉄を馬に乗せれば良かったんだ。俺が助かっても誰も喜びはしない。


無論俺自身も。


皆に責められても「気にするな」と貴方は言った。
それは、俺を心配して言ったわけではなく自分に言い聞かせていたのですよね?

休や鉄の名を呼び毎夜泣いている貴方を見る度に思っていたのです。

後悔しても失ったモノは戻らないのだと。



私は貴方から大切なモノを沢山奪ってしまった。
謝っても許しては貰えないだろう。ならどうしたらいいか、ずっと考え続けました。



そして今わかったのです。



償いとして、今失いかけているものを






貴方の罪も







俺に背負わせてください。





「……なんだ、騒々しいぞ」
一人河辺へと行っていた馬超は兵たちの騒ぎに気づきゆっくり歩いてきた。


「馬超殿っ!!貴方を惑わせていた馬岱を討ち取りました!!」
「これでもう村を襲わなくていいのですよ!」

喜ぶ兵たち。その中心に転がる亡骸を見て息を飲む。
一瞬何かの聞き間違いかと思った。
「……岱?」




貴方たちと本当の兄弟であれば良かったのに…と何度思ったことか。
そしたら貴方は泣かずに済んだかもしれない。



「何故だっ!誰が岱をっ」




次に出会う時は…



“従兄上”ではなく








END...

―――――――――

いつもとはちょっと違う馬超と馬岱でした。(馬超だけが違うのかも)それでも馬岱は錦としての馬超を守りたかった…というのは変わらず。

…あれ?
感情任せに書いたから、自分でもよくわからないや(笑)
ごめんなさい(+_+)



2009/09/18