鍛錬が終わり馬鉄が部屋に戻ると、馬休が頬杖をつきもう片方の手の人差し指で髪をクルクル回していた。

「あ、お帰り。」
「…休?どうした…そんな難しそうな顔をして」
眉をハの字にして考え事をしてた馬休は馬鉄が話しかけると苦笑する。

「鉄は変わったなって…思って」
「変わった?」

「……昔はあんなに泣いてばかりだったのに。いつも“超兄ーって”」
「昔の話はやめろよっ。もう18だぞ?そんな風に泣いてたら変じゃないか」
「そうだね。」
笑いながら馬休は椅子から立ち上がる。


「鉄、戦場に立つのって怖い?」突然の問い。


「そりゃ怖いに決まってるだろ。」
少し馬休の様子が変だと思った馬鉄は彼をさっきまで座ってた椅子に再び腰をおろさせる。

「じゃあ何で戦うの?僕鉄は戦場で戦うより周りに指揮する方があってると思うけど」
そういうと馬鉄は「無理無理、絶対無理」と言い首を横に振った。

馬休・馬岱は薄々感づいていた。
馬鉄は兄弟3人の中で最も賢いのだと。しかし彼は自分でそれを蔑ろにしてしまった。



それは恐らく馬休の役割を奪ってしまうと感じたから。

本当に無意識的なものである。



馬鉄はいつの間にか超してしまった兄の体を抱きしめる。

「………いつも言ってるだろ。俺は休を護るって。」


戦うのは最愛の兄を護るため。

戦場が怖くても敵に立ち向かうのは…

「大好きな休と……もっともっと一緒に居たいから。」




休のいない世界に
求める物は何もない。



弟はそう言った。






幼い頃と同じだ。
家族を護るために戦いたい


そう言って武器を手にした馬鉄。


しかし
戦場に立って

骨肉を断ち
血を浴びて


いつの間にか僕の知ってる鉄は居なくなってしまったと思った。

そうさせたのは自分だ。

曹操に命じられるがまま、鉄に人を殺させた。
鉄が鉄で無くなったのは自身の責任だといつも責めていた。


でも違った。

何も変わっていない。
鉄は鉄のままだ。


戦う理由も何も変わってない。


「………鉄、ありがとう」
「……あぁ…」

語尾に疑問符がついているような返事をした馬鉄。
馬休は抱きしめていた馬鉄の腕を解き、机にあった布袋を灯っている火で燃やした。


「何だそれ?」
「僕にはもういらない物だよ」


もう曹操なんかに従うのはやめよう。だから“これ”はもう必要ない。




「曹操の首、いつか“みんな”で穫ろうね」
馬鉄はその言葉に強く頷いた。









END





馬兄弟ハッピーエンド(?)
馬休が魏に行かないという話でした。

まぁそれでも裏切り者には報復があるのですから、最終的にはハッピーエンドにはならなかったりするのでしょうね。←投げやり。

2009/07/18