最近戦でおかしいことが起きていた。
攻めても攻めても、まるで先読みされているかの如く守りが固められているのだ。
誰かが蜀の情報を流している…と考えるのが必然的なことである。

疑わしき人物は大勢いた。


「……面倒なことになったな。」
「うん。……だけど孔明殿のことだし、すぐ見つけられると思うよ」
ベッドの上でストレッチをする馬鉄に馬休は言った。
その表情はとても険しい顔である。
理由は一つしかない。

「……休も疑われてるのか?」
「仕方ないよ。状況が状況だし。でも一番疑いが強いのは姜維だよ。……彼は元魏の将だからね」
情報が漏れているのは魏のみ。
…となると、魏になにか由縁がある者が疑われるのは当然のこと。

彼の場合は母が魏の領地にいるという。
彼自身にそのつもりがなくても母を人質に取られているならば、どうなるかわからない。
「……孔明殿は姜維を庇っているけれど、やっぱり周りから色々言われて」
本人は平然としているが、それをみていると余計に心が痛くなる…と馬休は語った。

「なんか言われたら、俺に教えろよ。……そんなやつら俺が叩きのめしてやる。」
「ありがとう、鉄」
馬休はにっこり笑い、灯りを消して自分のベッドへと入った。



・・・・・・・・・・


「困った話ですよね……。今は防がれるだけで済んでいますけど…我々の動きをわかっていて、急所を攻められたらとんでもないですよ。」
「だよなー……っと」
馬鉄は趙雲が打ち込んできた所を的確に防ぎ攻撃を凌いだ。
話をしていたから油断していると思ったのだろう。しかし戦闘に関して俺は不器用ではない。

「いい動きです。」
「だろ?」
返事の後馬鉄は槍を持ち直し、今度は積極に攻めた。
槍の攻撃は何も突くだけではない。刃先、柄…時には槍を軸に体を使い攻撃
これは兄譲りの攻撃法であり、同じ槍使いでも趙雲はこんな動きはしない。

「それはあまり真似しないほうがいいですよ?叔戒だと隙がありすぎて…」
趙雲は馬鉄の蹴りをよけ槍の柄の方で馬鉄の顎を突いた。
それを見事にくらった馬鉄は変な声をあげ、床に倒れる。



「っ…くぅぅ………う。」
「馬超殿ならそこから攻撃に繋げるのですが、叔戒の場合無駄な動きで終わってますよ」
涼しげな表情で言う趙雲に何も言い返せず、馬鉄は暫く地に伏していた。




夕食時も広間は緊迫した空気であった。裏切り者がいる話はみんな知っている。
それが一人とは限らない。

「…………嫌ですね。こういう空気は」
「そうだな。よりにもよって魏に情報を流すとは……見つけたら俺が叩ききってやる」
器の酒を飲み干し馬超は周囲の人たちを睨む。
そんな兄を見て馬休は笑った。

「やっぱり二人は似ているな」


「叔戒に同じこと…言われましたか?」
馬休の言葉を察した趙雲は彼に尋ねる。

「はい。本当は僕が兄なんだから弟を守らなくちゃいけないのに……なんだか情けないです」
「そう言うな。休には休のやり方がある。それに、まだ戦場に立てるほどではないが以前よりは体力はついただろう」
苦笑いする馬休に空かさずフォローしたのは馬鉄ではなく馬超であった。
今馬超は馬休に槍の使い方を教えている。それに加え、以前のこともあり護身用に短剣を持たせその使い方も教えていた。

「休…戦場に立ちたいのか?」
そのことを初めて知った馬鉄は驚き、思わず馬休にきいた。
「何れはそうなりたい。戦場で策を指揮する人が多いほうが良いって孔明殿も言ってたし」

そう言った馬休の顔はいつもと違っていた。やっぱり兄なんだな…と思ってしまう。



でも…


戦場はそこまで甘いものではない。
今の休…否、例えもっと強くなったとしても、戦場で生き残れる保証なんか無い。
それは俺だっておなじだけど

休を守りたいから俺が戦場に立つように
休も俺を守りたいから戦場に立ちたい…というなら

そんなのは必要ない。

そう言ったら休はいつもどおり怒るだろうな。








・・・・・・・・・・・



「…………」

数週間後、初めて休が槍を振るっている姿を見た。

相手は馬岱である。
馬岱は明らかに手加減しているが、それでも休が著しく成長したのはよくわかった。

「あはは……やっぱり岱の足元にも及ばないや」
武器を弾かれ馬休は地に尻をつける。
“驚いたよ”手を差し伸ばし、馬岱は馬休を起き上がらせた。

「鉄とも一戦交えたいな。」
笑顔でいう馬休だが、それに反して馬鉄の表情は険しかった。
なぜ馬鉄の機嫌が悪いか察した馬岱は、「少し休憩してからの方がいいよ」と声をかけ馬休の腕を引く。


「いいよ。でも俺は岱みたいに手加減できる自信…ないぜ」
そう言って馬鉄が立ち上がると馬岱は“やめろ”と目で訴えてきた。
しかし、当の馬休はとても嬉しそうにやったと喜んだ。


休はわかってないんだ
戦場がどんなのか…

そんな状態で戦場に立てば、すぐに屍となってしまう。
だから教えなければならない。

鉄…わかってほしいんだ。





その考えは間違っていると……





武だけが全てではないと












・・・・・・・・・・







「叔戒……どうした?」
「……………」

今馬鉄は趙雲の部屋にいる。
趙雲が先ほどまで無かった馬鉄の頬の傷にスッと手を伸ばすと、馬鉄は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「馬超殿が止めなかったら今頃どうなってたか……わかるだろう?」
「……………」

馬鉄は黙り込んだまま下を向く。

数刻前、馬鉄はしてはいけないことをした。


「鉄、僕の負けだ」

馬休がそう言って降参したのだが馬鉄の槍は止まらなかった。
その時運よく馬超と趙雲が鍛錬場に姿を表したのだ。







「なにをしてるんだっ!!」

当たり前だが馬鹿な真似をするつもりは無かった。

「鉄、俺もお前みたいに本気を出してやろうか?」
あの時の兄貴の目は…身動き一つ取れなくなるくらい怖かった。




「………趙雲殿、いいか?」
「あ、馬超殿。ちょっと待ってください。」
馬超の声はとても低かった。先程のことをまだ怒っているのがよくわかる。

降参した相手を攻めるなど…仲間内ではまず絶対あり得ないことだ。
ましてやそれを弟がしたのだ……
馬超はもしかしたら叔戒をこの地から追い出そうとするかもしれない。

しかし……

(叔戒の気持ちもわからなくないな…)
今まで武器を持たなかった大切な人が戦場に立とうとしているのだ。

憶測ではあるが、叔戒は身を持って教えたかったのだろう。その程度ではすぐ死んでしまうと。


趙雲はそんなことを考えながら部屋を出た。



・・・・・・・・





「見苦しいところを見せてしまった……。」
「いいえ。…大事に到らなくてなによりです……」
部屋を離れ、誰もいない回路に連れてこられた。灯りは廊下に灯る松明のみ。
少し不気味である。


「あいつのあんな目初めてみた……。仲のいい二人だと言うのに…何があったというのだ」

そんな馬超の言葉で自分が勘違いをしていることに気づいた。
彼は今怒っているわけではない。強く叱咤したことを悔やみ、哀しんでいるのだ。

部屋にいる叔戒と全く同じ顔をしていた。
「私はわかりましたよ。叔戒がなんであんなことをしたのか。」
「なに?それは本当か……?」
「ええ。」
馬超は教えてくれと趙雲に頭を下げた。が、趙雲とてただで教えようとは思わない。

「キスしてもいいなら教えますよ?」
「なっ……何故ここでそうなるんだ」
冷静を装っているがきっと心拍数が上がっているに違いない。
それを必死に隠そうとする馬超をみて趙雲は思わず笑ってしまった。
「冗談ですよ」
「…………あまり気持ちの良い冗談ではないな」
「すみません。」
にっこりと笑み馬超に謝ると彼は深くため息をついた。

「…とりあえず一度本人たちに聞くのが一番だと思います。」
「……そうだな。」
二人はそう結論付け、馬休たちの部屋へと足を返した。



丁度その頃、馬鉄は趙雲の部屋を出て自室の前まで戻っている最中であった。

角を曲がると見たことの無い男が部屋から出てきた。
それも位置的に俺と休の部屋である。


まさかと思い馬鉄は走る。
男の顔は覚えた。もし何かあったら探すことは簡単だ。だから今は休のところに行くのが先である。




「休っ!!?」

いやな光景が頭を過ぎった…が、馬鉄の考えは微塵も当たっておらず部屋の中にいた馬休は大声に驚きキョトンとしていた。
「………どうしたの?」
「っ…知らない奴がでてったから………また酷い目に合わされてると思った。」
そう言うと馬休は笑った。
どうやら、広間に忘れ物をしたらしくそれを届けてくれたようだ。…さっきすれ違った時に殴らなくて本当によかった。

「でも、心配してくれてありがとう。」
「…………」
馬鉄は体から力が抜け床に座り込んでしまう。

「僕、鉄に心配かけてばかりだ……。」
「……………休っ…」
俺はそれを重荷に感じたことはない。寧ろ休を護れば護れるほど、嬉しいと思える。
だから


「……剣を握らなくていい…。手を汚すのは俺や兄貴だけで充分だ」
我が儘だとわかっている。だけど失うのは嫌だ。
細い体を強く抱きしめ、兄にそう訴えた。



ふと兄の顔をみると、思った通りいつも通り笑っていた。
「鉄には黙ってたけど、もう戦場に立つことは決まってるよ。孔明殿から直々に命が下った。今度の北伐には僕も参加する。」
「…………」
「大丈夫。伝令みたいなことだから、戦場で戦ったりはしないよ」
馬休は大丈夫というが、馬鉄は不安で仕方なかった。
そんな馬鉄の心の内が分かった馬休は、彼の両頬を掴み真っ正面から睨みつける。


「てーつ……少しは僕のこと認めてよ」
「…っ……いっ…」
ギブアップと言いたいが言葉には出来ず、馬休の肩を叩いた。



が、笑ってばかりで暫く兄の手が離れることはなく、馬鉄の目尻には涙が溜まっていった。



部屋の外ではそんな二人の様子を扉越しに聞いている二つの影があった。
「…結局何が原因だったんだ。」
馬超は腕を組み首を傾げる。


「叔戒は大切な人に戦場に立って欲しくなかったのですよ。それが今まで剣を握らなかった方なら尚更です」
知ってたのか…と馬超は趙雲に尋ねた。

「兄弟の中で叔戒が一番優しい子なのでしょう?」
「…そうだな。休は結構気が強くて頑固だからな」
「なんとなくわかります」
趙雲は思わず笑ってしまいそうになり口元を抑える。

一見気弱そうにみえるが、あれは精神面ではだいぶ強そうだ。

「馬超殿、こちらも落ち着いたことですし鍛錬を再開しませんか?」
今日はそのつもりでいたのだが、叔戒の一件で流れてしまっていた。

しかし…

「……時間が時間だしな」
そういって馬超は考える。
闇も深まり、もう今から手合わせをするような時間ではない。だが折角約束をしたのだからこれを無かったことするのは勿体無い。


「趙雲殿埋め合わせと言ってはなんだが、これからで部屋に行ってもいいか?」
「もちろん。断る理由なんてありませんよ」
これは願ってもいない状況となった。趙雲は心の中で馬鉄に礼をいう。

その瞬間中から馬鉄の叫び声が聞こえた。馬超はそれをきいて苦笑いをする。
馬鉄は馬休とのケンカになると手を出さないから確実に馬休が勝つ。

それに加えて


「実は馬休に体術を教えているんだ。これが思ったよりのみ込みが早くてな。」
素手のケンカなら今だと休の方が上だろうな。



「え……」
「どうした?行くぞ」
「あ…はい」
趙雲は背にした二人の部屋を一度振り返る。



(……心配ですね。)

例えばの話で、馬鉄と馬休の関係が兄弟ではなく恋人の方へと傾いたとしよう。

しかし、馬休はおとなしく受け身になってくれるだろうか?
やはり兄としてのプライドはあるだろうし……


(叔戒……押し返されないように気をつけて下さいね)


趙雲は友にそう祈り、馬超と共に部屋へと向かった。







・・・・・・・・・







「いつの間に…そんなに力つけたんだよ…」
馬休に体術を披露された馬鉄は肩をあり得ない方向へとねじ曲げられた。
「……うーん。兄様曰わく、僕って武器使ったりするよりこっちの方が向いてるらしいよ?」馬休は痛がる弟を放置し、自分のベッドへと移動した。
「………」
一見細身だが、馬休とて幼い頃は馬超や馬鉄と鍛錬はしてきた。力がないわけではない。





「………ねぇ鉄。趙雲さん優しい?」
馬休はベッドに転がりながら肩を回している馬鉄を上目遣いで見る。

「ん…まぁそれなりに」
「そっか……。鉄幸せそうだからさ。」
「俺は休と一緒にいる時が一番幸せだ。」
「うん。いつも言ってるから知ってるし、僕も鉄が大好きだよ。」
馬鉄は息を飲んだ。
大好きだと言ってくれたこのチャンスを生かさなくてどうするんだ。

「っ………」


思い切って言うべきだ。
俺が言いたい“好き”の意味は違うと。

「休っ!」
「えっ……」
突然、上に覆い被さってきた馬鉄に驚き馬休は何度も瞬きをする。

「嫌なら振り払ってほしい。」
自分で気持ちをハッキリと言わず、相手に答えをださせるなんて卑怯だとわかっている。

だけど色んなことを考える余裕などなく、直感的に言葉を口にしてしまった。


「鉄は本気で僕とそういうことをしたいと思ってるの?」
意外だった…
休は言葉の意味をすぐ理解し、それに対しての答えを冷静に言っている。

下から向けられた真っ直ぐで真剣な兄の眼差しをみて馬鉄は一瞬怯んだが、ゆっくりと首を縦に動かした。






すると馬休は小さく笑んだ。













「……鉄、自分を大事にしなくちゃ駄目だよ。これからもっと色んな人と出会って、その中で本当の恋をする。」
OKだから笑ったと思ったがどうやら違うようだ。しかもこの答えはどう考えても拒否しているとしか思えない。
しかし…ここで引くわけにはいかない。

「俺は本当に休のことがっ…」
「じゃあ1週間後、それでも僕の事が好きで居られたら鉄の気持ち受け止めてあげる。」
その間、今一度自分の気持ちを考えてみて…と馬休は言って馬鉄の額に軽く唇を当てた。

狐につままれた様な気分だ。
拒否されたのかと思えば次の瞬間には、どちらかといえば受け入れてくれた様な答えをいう。
そしてこのキスだ。

「休……今更一週間なんて」
「はいはい。文句言わない。

「………」
なぜか勝ち誇ったような顔をする兄をみて、馬鉄は口を尖らせ自分の布団の中へと潜った。




一週間…


今までの年月に比べたら遥かに短い。
俺の気持ちが変わるはずなんてないと思っていた。



しかし…









「っ………!?」

見てしまったのだ。
約束の日まで残り2日となった出陣の前日。
すぐ部屋に戻ってくると言った休がなかなか戻ってこなく探しに行くと、人が全く通りそうもない場所で休が趙雲と話をしているところを。



「………ねぇ鉄。趙雲さん優しい?」



もしかしてあの時の問いは…


(まさか…休)



二人に気づかれぬよう馬鉄はその場を去った。





END



えっと、ここに書いていた文…何かだいぶ違うので削除いたしました。
色んな話に派生する…と言うことをかいたのですが、結局やってないという…;










恒例のおまけ[既に本編の一部]


[side:趙雲&馬超]








部屋に入り趙雲は椅子を引き“どうぞ”と馬超を座らせた。

「あの馬超ど「鉄はどうだ?」
馬超は言葉を遮り趙雲に問う。
「叔戒ですか?…やはり馬超殿の弟ですよ。他の兵とは比べ物になりません。」
「夜も色々と教えてるみたいだな。……すまない自由な時間がだいぶ減ってるだろう。」
迷惑なら断ってもいいのだぞ?…と馬超は申し訳なさそうに言う。

「いいえ迷惑なんて…。」
「………」
迷惑だと思ったことはない。
馬超のことを色々教えてくれるし、寧ろこちらが礼を言いたいくらいだ。

「ならば、双方承諾の上でしているのだな。それはよかった……が、兄としては少し複雑な気持ちだな。」
馬超の言葉を深い意味で考えればいいのだろうか?それとも…
「ある程度は目を瞑るが、始めの時みたいに鉄を泣かせたら覚悟なされよ」
「――――――!!?」
隠し通せているつもりだったか?…と馬超は目で趙雲に言った。


「わたしは…」
「…隠してるのなら、もう少し上手く隠せ。貴公らしくない」
叔戒と体の関係を持っていると言うのは充分隠してるつもりだった。それが何故バレている。それもよりにもよって馬超に……


「…………もしかして、」
「前に貴公が鉄を助けた時だ。あの時実は少し前からあの場にいたんだ。」




彼の名誉の為に言いますが、叔戒は誰と問わず腰を動かしていたわけじゃないですよ?

私一人だけですよね?



「貴公がそう言った時に我が耳を疑った。はじめは、最初の夜のことを言ってるのだと自分の中で勝手に都合よく解釈してみたが、どうもそうではないと次第にわかっていった。」
「馬超殿、勘違いしてますよ。」
馬超は完全勘違いしている。これは早めに本当のことを教えなければならない。

「私は馬超殿一筋ですよ。それに叔戒には他に好きな人がいますから。」
「…なに?」
眉間に皺を寄せる馬超。確かに、この状況は人に説明して簡単に納得が行くことではない。


「……どうしたら相手が自分をみてくれるか…。毎晩そんな事を叔戒と話してるのですよ。」
「………鉄は誰が好きなんだ?」
「男同士の約束なので言えません」
人差し指を口元に当て趙雲は言う。それをみて馬超は一瞬寂しそうな顔をした。

「どうかしました?」
「いいや…。趙雲殿の方が兄らしいな…と思って。」
「わたしのこと兄上って呼んでみます?」
馬超は遠慮すると本気で嫌そうな顔をした。



「………馬超殿」
「…呼ぶな」
「どうしてですか?」

あ、拗ねてる

そう思えたのは、感情を表に出しやすい叔戒の表情が一瞬浮かんだからだ。

「……………」
「………何故、好きでもない奴と体を重ねられる」

そうきますか。

なんだかんだ言って、馬孟起と言う人物は純粋である。

「馬超殿はわたしと体を重ねられます?」
「そんなわけあるかっ…。今俺に触れてみろっ…。八つ裂きにしてやる」
「それは嫌ですから、触れませんよ」
趙雲は手を上げ、触れないことを彼に示す。少し息を上げ趙雲を睨む馬超は小さく舌打ちをした。

「馬超殿は本当に警戒心が強いお方だ。その点は叔戒にも見習って欲しいな」
「…………」
何となくわかった。
彼の機嫌が悪い理由。


それに気づいた趙雲は心の中で思わず笑ってしまった。


「…………ねぇ馬超殿、これから“馬超”と呼んでもいいですか?」


「!?」
何故だ…と馬超は趙雲に尋ねる。
「前々から思ってたのですよ。区別化の為に叔戒の事は字で呼んでいるのですけど、よく考えてみたら馬超殿との方がずっと長くいるので、“殿”をつける必要はないのかな?って。」
しかし、今更字で呼び合うのもおかしい話である。



「……貴公がそうされたいならそうされよ。」
「はい。じゃあそうしますね。」
少し嬉しそうな顔をする馬超をみて趙雲は確信した。
かなりの確率で脈ありだと。




やはり叔戒には何らかの形で礼をしなければならないと思った。


END





実は馬超は趙雲と馬鉄の関係を知ってたり。そしてその中で二人が字で呼び合ってるなら仕方ないことだと思っていたけど、付き合ってはないという真実。と、なると何故二人は字で呼び合ってるのか。馬超の脳内はそんな事でいっぱいに。


素直じゃない馬超が好きなんですvV

2009/04/16