あの頃とは違う街並み
あの頃とは違うベタつく空気


それにさえ漸く慣れてきた。
あれから幾年過ぎたのだろう。
母は父と韓遂殿の意地の張り合いに巻き込まれ命を落とした。
父は処刑された…
兄弟も皆死んだ

残っているのは従兄弟の馬岱だけ。

そう思っていた。



「っは…従兄上っ!」
いつも大概はおちついている馬岱が息を乱すほど、慌てて走ってきた。

「今すぐ丞相のところへきてくださいっ!」
馬岱は馬超の腕を力いっぱい引く。
さすがにただ事ではないのだろうな…と馬超は思い、急いで諸葛亮のところへ向かった。






■meet again■






「……で、なんの用だ諸葛亮殿。」
「……おや?馬岱から何も聞いてないのですか?実はですね、先日賊の討伐に向かった兵が、その賊から手紙を預かりましてね……」
これです…と、諸葛亮は机の上に置いている手紙を指差す。

「…恐らく異民族が使う特有の文字で、私には解読が不可能だったのです。しかし異民族に繋がりがある馬岱なら読めるかもしれないと思い彼を呼んで読ませたのですが……」
見せた途端に貴方を呼ぶと飛び出してしまったのですよ。

「…確かに…これは俺たちの所の文字だ…」
馬超は封書を手に取る。封筒には「親愛なる兄へ」と書かれていた。


誰が誰に宛てた手紙だろうと思い封筒から紙をとりだす。
羌の文字など久しくみた。


「…………諸葛亮殿。その賊退治俺たちに行かせてくれないか。相手もそれを望んでいる」
「…先ずはその手紙の内容を教えて頂けませんか?盗賊と同じ民族であるなら……貴方が蜀を裏切る可能性もあるでしょう」

手紙の内容なんてどうでもいい。問題はこの字だ。

「明日この成都の北にある小さな集落を襲うと書いている。……止められるなら止めてみろ…と」

汚い字でとてもじゃないが読めたものではない。急いで書いた…という理由ではないようだ。
しかし俺はこの字が読める





「…………っ」
どんなに苦しくても
どんなに辛くても

涙を流したことなど無かった。

しかし……



「馬超殿…?」


それは、この時の為に全て溜め込んでいたのだろう。




・・・・・・・・・



「行くぞ岱」
「はいっ従兄上。」


次の日馬超と馬岱は出陣の準備をし馬に跨った。

後ろには趙雲と50騎の騎馬隊がいる。

「馬超殿……隣は私じゃなくてもいいのですか?」
現在討伐中の賊は、賊の中でもかなり異質だという噂が城中に飛び交っていた。

本来であれば、たかが賊退治に馬超の様な将が出陣することはないのだ。しかし、中途半端な将では返り討ちにあってしまっていた。……それ程強く、実は元将軍だったのではないかとまで言われている。

そんなこともあり、趙雲は馬超を心配した。

「…悪いが、岱だけで充分だ。手出しは無用だからな」
馬超がそういうと趙雲はため息をつく。
「……孤高な貴方は好きですが。無理はしないで下さい。…万が一のことがあったら加勢しますからね」
そう言って趙雲は自分の持ち場に戻る。




目指すは小さな村。
万が一のために、趙雲は村の入り口に兵を半分置いた。


さらにもう半分で壁を作る。

趙雲はその騎馬隊で作った壁の前方100mの所で構えた。
馬超と馬岱はさらに50m程先にいる。

情報によると相手の数は1騎かもしれない。

ここまで極端に少ない賊も珍しい。それ程自分に自信があるというのか…



そう思ったとき…



大きな地響きが大地を揺るがした。





「しまった…」
思ったより数が多いのかもしれない。
わざわざ手紙で宣言したくらいだ…相手が何も用意していない筈がない。

しかし、趙雲の目に映ったのは馬超に向かって駆ける一騎の兵だった。

その後ろからもう一人駆けつけるが、少し離れたところで馬の足を止めた。
また、馬岱も馬超に応戦する気はなく離れた場所で二人を見ていた。

「何だったのだ?今のは…」
地響きの事を考えている内に目の前で一騎打ちが始まった。



確かに…そこらの賊とは思えない程鋭い太刀筋。その姿はかつて成都で対峙した錦の姿を思い出させた。


元将であるのではないかと噂された賊の男だが、それにしては若い顔立ちである。


5合



10合



15合





打ち合っても打ち合っても、勝負はつかなかった。
始めは互角なのか?と思ったがどうやら違うと言うことに趙雲は気づいた。


「馬超殿が手を抜いているのか…」


それにしても彼が手を抜くとは珍しいこともあるようだ。


「いや…違う」


手を抜くというよりは…




まるで手合わせのようだ。
互いに殺意を感じさせない。






「馬超殿っ!」
「ん?」

一騎打ちは無論馬超が勝った。
盗賊はそのまま縄につき、成都へと連れてこられて地下牢へと押し込められた。

もう一人の賊は何も抵抗せず、大人しく縄についたことに疑問を感じた。

彼らは処刑されてしまうのだろう。村を恐怖に陥れた罪はとても重い。


日が経つのはとても早く、あの日から既に一週間が経とうとしていた。
趙雲はついに疑問に思っていたことを聞くことにした。
考えるだけ時間の無駄だし、何よりも、もやもやした気分を晴らしたかった。

「何故あんな戦い方をしたのですか?」
「…まぁ色々とだ」
「教えてくれないとここで押し倒しますよ?」
趙雲がそういうと馬超は「勘弁してくれ」と言って趙雲の手を払う。


「馬岱もいないでしょうし……いいじゃないですか?」
「そういう問題ではないだろう。何故俺が男に押し倒されねばならないのだ」


趙雲は馬超がここに来た当初に告白したのだが、見事に撃沈した。それからずっとアプローチをしているが、彼の堅固なガードが崩れることは無く、唯一一度キスをした程度だ……


「…それにそろそろ呼ばれる頃だろう。」
馬超の言葉通り、馬岱が馬超の下へ走ってきた。

「従兄上、殿と丞相が呼んでる」
「あぁ。今行く。」

馬超の顔は今までみたことの無いくらい清々しいものであった。

「馬超殿!」
「なんだ?」
「正直な話、今なら無理やり襲っても許されると思いましたよ」
「何故だ?」
「最近の貴方はとても機嫌がよさそうだったので。」
そういうと馬超は「それは正解だ」と笑いながら答える。


何が今の貴方の機嫌をよくしているかは存じませんが…



「……用事が終わったら覚悟してください」
「覚えていたらな」

こんな返事が返ってきたことなど一度もなかった。

一人廊下に取り残された趙雲は満足そうに自室へと戻った。

「馬超そして馬岱、二人に問う。この者たちに覚えは?」

目の前にいる縄で縛られた二人の盗賊。
一人は長身で体は鍛え抜かれている。
もう一人は逆に細身で女のような容姿をしていた。

劉備と諸葛亮らが馬超たちを呼んだのには理由がある。

何も言葉を発さないたった二人の盗賊。


鎧をつけている時は色素の薄い髪も、白い肌も何もかも見えなかった。
最初に違和感を感じたのは諸葛亮である。
彼の提案で二人に湯浴みをさせると酷似し過ぎていたのだ。

今はこの国にいる錦に…。




「我が弟です」
「……やはりそうでしたか」
諸葛亮は「これで漸く、あの時の貴方の涙の意味がわかりました」と言った。



「名をなんという?」
「休と鉄と申します」

馬超が二人の名を劉備に言うと劉備はさらに尋ねた。

「お前たちは民から金品を奪い、更には村を襲おうとし村民を混乱させた。……これは私の国では重罪だ。…どういう意味か…わかるか?」

「……充分存じてます。」
「あぁ…わかってる。だけど成都に兄貴が居るって確認する為にはそれしかなかったんだ!」
「どういうことです?」

諸葛亮が訪ねると淡々とその経緯を話始める。



“あの日”二人は地獄をみた。

瀕死状態の馬鉄を見つけた馬休は自分よりも一回りも大きい体を担ぎ、死地から脱出しようとした。
幸い曹操たちは撤退して見つかることは無かったが、自身の傷も酷く、何度生きることを諦めたかわからないほど酷い状況である。

とった首に馬騰の息子がいないと気づけば曹操は自分たちを探すだろう。だから馬休は暗い洞穴に身を潜め、馬鉄の回復を待った。

自分達は息一つすることさえ許されないと思った。



馬鉄の傷が全快した後、二人で涼州を目指した。しかしその道中で涼州が曹操に取られてしまった話をきいた。

居るべき場所も帰るべき場所もなくなった。

「私たちはそれからは山賊を狩りながらその日その日の生活をしてきました。……そんな時」
「目の前で山賊に襲われていた奴がいてそれを助けた。……持ち主が目の前に居たら金品は本人返すっていうルールを俺たちは決めてたからな。」
「………その助けた方が言ったのです。“もしや…錦馬超殿では?”と」そしてその人に兄のことをきき、成都に兄が居るという事を知りました。

蜀の殿は劉備という民思いの大徳だと言うのは知っていた。

門から堂々と入るのを考えた。しかし、漢民が自分たちの様な異民族の話を真剣にきいてくれるだろうか?

そもそも兄が成都にいるというのは確実な情報ではない。…もし情報が本当だとしても、兄が蜀で酷い扱いを受けているのなら自分たちが行ったら余計迷惑ではないか…と思い、成都にはなかなか足を踏み入れる事が出来なかった。


そこで考えたのが、行けないのならおびき寄せればいい…ということだった。






「劉備様…僕たちは、盗賊の振りをしていただけです。民の方々には事前に話をし、了承を得、物品も後日きちんとお返ししております」
「なんと…それは本当か?」
劉備の問いに二人は頷く。

「……この前の村襲撃の話は…早く兄貴と刃を交えたくて俺が勝手にやったことだ。あれが民を脅かしたっていうなら罰を受けるのは俺だけでいいだろ。一応言っておくが、村を襲うつもりは一切なかったからな」

劉備と諸葛亮は顔を見合わせる。もとより馬超の身内ならば罪を少し軽くする予定であった。
しかし、話が全て本当ならばこの二人は罰することがないのだ。

「馬休に問う。…民を脅かしたことを反省しているか?」
「……はい。事前に村人に言えば良かったと思います。」
「…馬鉄はよい。……態度で反省していることがきちんと伝わってるからな」
その劉備の言葉に馬休・馬鉄の二人は顔を見合わせる。そして片方は落ち込み、もう片方は思わず笑ってしまった。


「………劉備殿、遅いだろうが二人に自己紹介させてもよろしいか?」
馬超は苦笑いをしながら劉備にきいた。


「………構わないが…どうかしたか?」

苦笑している馬超
そして馬休・馬鉄二人の表情をみて、諸葛亮はハッと気付く。



先に細身の男が立ち上がる。
そして続けて、背の高い方が立ち上がった。

「僕が次男の馬休です……」

「それで俺が三男の馬鉄。休も泣くなよ。いい加減慣れてるだろ?」


「なんと…そちが兄であったか……」
「すみません…。」
「いや、こちらこそすまなかった」


それから話は後日…ということになり、二人は取りあえず馬超と馬岱の部屋にいることになった。



・・・・・・・・



「……すまなかった。涼州を守り切れてたら、お前たちをこんな目には合わせなかっただろう」
「話は色々きいています。……ホウ徳さんのことも」
馬休は馬超の2つ下で姜維や関平と同い年。馬鉄はさらに1つ下である。

「………兄貴、本当にこの国に留まるのか?」
「あぁ…。もうそれしか曹操を倒せる機会がなさそうだからな」

2年も経てば人は成長する。
馬鉄は元から馬超と同じく体格はよかったが、さらに背が伸び、兄とさほど変わらないようだった。


「岱がお偉いさんに学問を学んでるとは意外だな…」
「岱は元から頭がいい方だったからね。…それに兄様の助けになりたかったのでしょう?」
違いますか?と馬休は馬超に問う。

弟の言う通りであった。


「鉄だって僕がいるから今まで生活してこれた。…それに僕も鉄が居たから今まで生きてこられた。確かに武も大事だけど、学問も身につけないといけないよ。」
「わかったわかった。お前いつもそれだよな。」
「鉄がいつも猪みたいに賊に突っ込もうとするからだろう!」

景色が変わり
気候が変わった…


だけど変わらないモノもある





「…二人ともいい加減にしろ」
馬超は懐かしい光景に安堵しながら二人の間に入り、ケンカを止めた。





馬休が政務をしている馬岱を見たいというので、諸葛亮の了承を得、従兄弟のところへ行くことにした。

「鉄はいかないのか?」
「俺はいい。みたってさっぱりだからな。それに疲れた。今すぐ寝たい」
寝台の上で大の字に寝る馬鉄。

「そうか、なら灯りは消してくぞ」

馬鉄が馬超と同じほどの背丈になったこと
部屋に一人だけ残ったこと

そして馬超が火を消して部屋が暗くなったということが重なり、この後悲惨な目に遭うことに馬鉄は気付かなかった。



・・・・・・・・・



「………ん」
寝台が僅かに沈み馬鉄は目を覚ます。すると何かでかい影が自分を覆っていた。

「なっ……んぐぅ……」
叫ぼうと思ったが口を塞がれ、言葉を発することが出来なかった


「馬超殿、今日馬岱は遅くまで姜維殿と勉強をするようですよ?」
人違いだ…と言いたかったが、それすらも馬鉄は発言する権利はなかった。

この男は一体何をするつもりなのか……
まさか兄貴はいつもこうやって命を狙われているのだろうか?

「そんなに怯えないでくださいよ。優しくしますから……」
そう言って男は手を口から離し、変わりに顔を近づけた。


「―――――!!?」
突然のことに馬鉄は目をまるくする。

「っ…ぅ………っは」
「…思ったよりおとなしいですね?顔に痣が出来るほど抵抗されるのを覚悟していたのですが。」

馬鉄は頭が真っ白になってしまい、趙雲の言葉さえも頭に入ってこなかった。


「今日はもう少し先に進めそうですね……」


馬鉄は馬超と違いそういう類のことには疎かった。
女に惚れることもなく、昔はただ父や馬超を超えるため。そしてここ最近は馬休を守るために全てを費やしてきた。
いろんな事が同時に出来るほど器用ではなかったのだ。

無論今起きていることに対してもまったく免疫力がないのだ。



「鉄、寝てるか?姜維がお前に興味を持ってな。」

部屋に戻ってきた馬超・馬休・馬岱。そして馬超のもう一人の弟を見てみたいと部屋を訪れた姜維。

「………寝てるみたいですね。邪魔するのも可哀想ですし、明日紹介して下さい。」
姜維はそう言うと部屋を後にした。

「………さて、どうするか。」
どうするか…というのは寝る場所の話である。寝台が二台あると言っても流石に大の男二人は眠れない。

「それは丞相が客用の布団を用意してるから後で取りに来て下さいと言っていたので大丈夫ですよ」
馬岱はそう答えた。
「そうか。なら休が寝台で寝るといい。それでいいよな岱」
「勿論。休もゆっくり休むといいよ」

「ありがとう」と馬休は笑って言って寝台に身を置く。

その隣の寝台で弟が息を潜めて泣いていることには気付かなかった。






・・・・・・・・・


―次の日―



「おはようございます。馬超殿、昨日はいい夜でしたね」
朝、馬超が広間に行こうとすると趙雲が気持ち悪いくらい爽やかにあいさつをしてきた。

「?……あぁ…月が綺麗だったな」
その後趙雲は馬超にピッタリとくっつき、耳元で「初めてで3回もしたのに………流石は馬超殿ですね」と囁く。


「………何の話だ?」
流石にそう言われてしまうと趙雲も馬超と話が合っていないことに気付く。

しかし、夢ではない。
確かに昨日の夜馬超と体を重ねた。


「いや…だから昨「休!俺はこんな国にいるのは嫌だっ!!これならまだ賊狩りをした方がいい!」
「何を言ってるんだ鉄。そしたら父の敵は討てないぞ!」

馬超の部屋の方から叫び声が聞こえた。
そして扉が開き馬岱が飛び出す。
「従兄上っ!鉄が蜀から出て行くって言ってるんだ」
なんとかして下さい…と馬超に助けを求める馬岱。

「…全く。すまない趙雲殿、話は後できこう」
「…部屋に誰かいるのですか?」
そう訪ねた瞬間更に二つの影が部屋から出てくる。


「……えっ」
「俺の弟たちだ。騒々しくてすまない」
趙雲は我が目を疑った。


「昨晩10時頃…もしかして出かけてました?」
「あぁ。休が岱の仕事をみたいと言ってな」
「その時、誰か部屋に残りました?」
「……あぁ、鉄が残ったが…どうかしたか?」

そんな会話をしてた時だった。

馬鉄の瞳に趙雲が映る。
「…っ……。」
その瞬間、あれほど部屋から出ようとしてた馬鉄は一瞬で部屋に戻り扉を閉めた。


「……………馬超殿にそっくりですね弟さん。」
「あぁ、よく言われる」

(……私も間違えてしまいました。)


さて…どうしようか、と趙雲は悩んだ。正直に話せば錦は自分に牙を剥くだろう。
……かと言って黙っていても、近いうちに本人が喋る可能性が高い。

(正直に喋った方がよさそうですね。)

趙雲は馬超を呼び昨晩のことを話すことにした。


「鉄!理由があるなら話せ!」
「あの…馬超殿」
「…ここの環境が肌に合わないと言うならば、それは何れ慣れる!…俺が保証しよう」
「実はですね、昨晩馬超殿の部屋に行って…」


・・・・・



「…………」
「本当に申し訳ありません」


昨日の夜のことをこっそり話すと、馬超はまるで石像のように固まった。
それまで部屋の扉を激しく叩いてたので、馬岱と馬休は「どうしたのだろう」と二人顔を見合わせる。


「……馬鉄、お前部屋から一歩も出るなよ」


きいたことの無いほど低い声で馬超はそう言った。

紫のオーラが彼を包み込む。





「従兄う…」
「岱止めるな…。趙雲殿、無論覚悟は出来てるな?」
「いや…あはは……。あのですね馬超殿…」

「言い訳はきかぬっ!」

その後馬超は趙雲を5時間にも渡り追いかけ回した。

夜には馬鉄の前で土下座をする趙雲の姿が広間で見られたという。



END

→あとがき+追加話


馬休・馬鉄登場小説第一話。
いやぁ…ごめん馬鉄


馬超が長男っぷりをはっき出来る小説を目指したいかと。

字考えてあげないとなぁ( ´∀`)





・・・・・・・




「………はい。どなたですか?」
夜、趙雲の部屋に誰か訪れた。
名を訪ねても返事はない。
おかしいと思った趙雲は立ち上がり、自ら扉を開いた。


「………」
驚いた。部屋を訪れたのは馬鉄である。
あの時は暗くて気づかなかったが、明るいところで見れば、やはり馬超殿より幼い事がわかる。
「……どうした?道に迷って部屋を間違えたのかな?」


いや…それはない


「アンタと話がしたい」
「……少し散らかっているけどいいかい?」
そう言うと馬鉄は小さく頷いた。




・・・・・・・・

「兄貴と…いつもあんなことしてるのか…」
…と馬鉄は言った。

「うーん…馬超殿は守りが固いからね。まだ体の関係はないよ」
「………」
「……どうしたんだい?」
馬鉄はそれからずっと下を向いたまま黙り込んでしまった。


「俺の記憶違いだったら…悪いが、あぁいうことは…その…好きな女と……」

その言葉で趙雲は気づいた。
馬鉄は全くその手の事の知識がないことを。

「……間違ってはないですが、戦場に立っていれば割と同性と…ってことは少なくないですよ。」
結局戦場に女性は居ませんから
と趙雲は言う。
それをきいて馬鉄は顔をあげた。
「…………じゃあ好きな奴が男っていうのは…おかしくないのか?」
「…えぇ。現に私は馬超殿の事を好きですし。」
そういうと、何か安心したかのように馬鉄は一息ついた。

しかし…また直ぐに不安そうな顔をする。

馬超と違い、随分と表情豊かな弟だ。
と趙雲は思った。



「……兄弟でも構わないと私は思う」
「!?」
趙雲は馬鉄の話の切り出し方から、どういう事なのか大体検討がついた。

「………たった二人で死地を乗り越えたんだからその際に感情が芽生えるのは必然的なことじゃないかな…」
「だけど休にそんなこと打ち明けたら……」
「馬超殿の弟とは思えない程後ろ向きなんだね。」
「っ……」

趙雲は馬鉄の傍に近づき顔を近づける。
そして…何度目かになる口づけをした。

「んぅ……っは……」

「…おかしいしと思ったんだ。馬超殿にしてはキスが余りにも初心者っぽくって。…で、」


今どんな気分?

口を離し、趙雲は馬鉄の目を見ながら尋ねる。

「………」
「昨日はだいぶ抵抗したけど、今日はしてない。そんなものじゃないかな……流れっていうのは」
「……流れ…か」

確かに…あの時みたいに嫌な感じはしなかった。



「趙雲…殿っ、俺に色々教えてくれないか?恥ずかしい話だけど…俺今までそういうの、全然関心なくて………」
「そういうの…って言うのは、昨日みたいなことかい?」
「……」
馬鉄は小さく頷いた。


口は荒っぽいが、かなり純情な男と思われる。
趙雲は馬鉄に優しく笑み自分の方へと抱き寄せた。




――――――――


馬鉄がどんどん趙雲に汚染されていくのですよ( ´∀`)