一人書庫で書物を読んでいるとこの場所では見たことのない男が訪れた。

「珍しいな君がここに来るなんて」
「岱のこと捜してたら兄貴がここに居るって言ったからな。……お前よくこんな埃っぽいところに居られるな」
「馴れれば静かで居心地のいい場所になるよ」
馬岱がそう返すと馬鉄は顔を顰め「ありえねー」とボヤきながら、床に座ってる馬岱の隣に腰を下ろした。そして床に置いている書物を手に取る。




「………」



「わからないだろうな」
「っ……馬鹿にするなよ!俺だって少しくらい読める!」
へー…と、馬岱は笑いを含みながら読みかけの書に視線を戻した。



「で、なんか用があったんじゃないか?」
しばらく静まり返っていた空気の中、馬岱は書に目を向けたまま問う。
「あ、」
それでわざわざこの埃っぽい場所に来たというのに、どうやら馬鉄はすっかり忘れていたようだ。


「な、なぁ岱。最近兄貴と子龍ずっと一緒にいるけど……いいのか?」
何をきくかと思えば・・・。

「……あぁ。構わない」
「っ…でも岱は………―――っ!!」
馬岱は馬鉄の言葉を遮るように強い音をたて書を閉じる。馬鉄はその音に驚き言葉を止めた。

「…従兄上が幸せならそれでいい。俺はそれで満足なんだ」
「嘘だっ!!」
「本当だ。」
しかし馬鉄はそれを再び否定した。
そんなこと言える立場ではないことをわかって言っているのだろうか。



君は趙雲の事を応援していたというのに。




「…………」

いや、鉄のせいにしては駄目だろう。
この気持ちに答えを出したのは自分だ。

「…休とはうまくやってるか?」
「―――っ!!」
気持ちを切り替えてそう問うと馬鉄は言葉をつまらせた。
どうした?…ときくと



視界から光が一瞬消えた。





本当に






本当に突然のことで一体何が起きたのかわからず馬岱は状況の把握を急ぐ。

「やめろよそういうのっ!!」
「…………て…つ?」

光が一瞬消えたのは鉄が俺を押し倒したから。
顔に当る冷たい感覚は鉄が泣いているから
脳まで響く程の罵声は、



俺が…怒らせた……から?


「………」
どうしてか解らない。
この鉄の言葉も行動も……。
俺はただ休との事をきいただけだ。


「俺はもう駄目だから……岱はあきらめんなよっ……」
「…………」
もう俺は駄目?

「休…と、何かあったのか?」
最近の二人を思い出してみるが、普段となんら変わりなく仲睦まじくしていたような気がする。
しかし今の鉄の状況・言葉から考えられることはそれしかなかった。



「休…と何かあったわけじゃない……」
「じゃあ…」
「…………俺が気付いたんだ。俺別に休の事が“そういう意味”で好きだってわけじゃないって」
突然の言葉に馬岱は唖然としてしまった。
あれだけ好きだといつも言っていたというのに、突然何を言っているのだろうか。

しかし…
その気持ちがわからないわけではない。



「君の目。まるで鏡を見ているみたいだ」
この言葉を鉄に言うのは2回目。
随分前の鍛錬中に言った。
俺がまだ従兄上のことを好きで、鉄が休を好きだったあの頃……


いや…正しくは好き“だと思っていた”頃…


「……どこがだよ。だから俺に気なんか使わないで岱は兄貴と……」
「鏡…って言っただろう?」
一つ判った。
鉄が怒ったのはきっとその時の俺の言ったことを覚えていたからだろう。


鉄が休に本気なら、俺は従兄上から手を退くよ


恐らく自分のせいで俺がひいたと思っているのだ。
けれどそれは違う。

「俺も……そういう意味で従兄上を好きじゃないって気付いたんだ。だから引いた」
「…………」
馬岱はそう言って自分の上で驚いた表情をした従弟の目を凝視する。

「従兄上が幸せならそれでいい…って言うのは建前だ。」
「なんで」
「そっちの方がカッコ良いだろ?」
誇らしげに笑う馬岱をみて馬鉄は「はぁ?」と顔を歪ませながら言う。


「で、鉄はいつまで俺の上にいるつもりだ?」
「あ、ごめ…………!!」


鉄の言葉は途切れた。
それはそうだ。

鉄の腕を掴み体を回転させ、今度は俺が鉄の上に乗ったから。
「……」

やはり、従兄上を諦めたのは鉄のせいだ。


「馬鹿な奴ほど可愛くみえるな……」
「…なっ…何言ってるんだよ急にっ」


従兄上に対しての気持ちが自分の思っていたモノと違うと気付かせてくれたのは鉄だ。



傍に居たい。
護ってやりたい…


そんな気持ちの前に溢れ出す感情。
従兄上には感じなかった感情の昴ぶり。


(……自分だけのモノにしたい)


これは間違いなく本気なのだと改めて思い知らされる。

今まではその感情が出ないように無意識に枷をかけていたのだろう。
しかし…今その枷は無くなった。





「岱、その笑顔怖……―――!!」

この昂ぶりを制御するものは何もない。
誰も止めることは出来ない。

自分でさえも。




優しく出来る自信はない。
そんな余裕何処にもないから。






なぁ鉄、


君が怯えている時は俺だって怯えている。
君が哀しいと感じているときは俺だって哀しい。


だって俺たち互いに鏡を見ているような存在だから。
物理的な物が逆さまに映っても感情までは逆には映らない。


と言うことは俺が笑顔だということは今君だって笑っているはずだ。
この行為を喜んで受け入れてくれる。




そうだろ?



キスを一つしただけで顔を紅潮させた従弟の瞳をもう一度覗き込み
馬岱は静かに笑った。





2010/02/16


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岱鉄の触り的ストーリーです。
なんかイメージと違うけれど…とりあえずUP致しました。
馬岱と馬鉄は似ていないようで似ている二人。
根本的なものは違えど中を見れば同じ。そんな感じ…です(多分)

リクエストをくださった尚サマ!ありがとうございます。
ここから馬岱×馬鉄を色々と派生させていきたいと思います!


よーし。原稿に戻りま〜す。