燃え上がる戦火。
取り囲まれたこの状況で逃げることは皆無。
馬超が曹操に抗ったそうだ。
しかしこれは全て初めから仕組まれていたこと。

曹操が涼州を我が物とするための…
俺たちに非はない。

だから俺たちはその手に武器を握った。
例えそれが天子に背くことだとしても……






―escape―






「岱っ……こっちはダメだ!逃げられそうにないっ」
「落ち着け。どこかに突破口はあるはずだ。」
叔父は既に曹操に捕まったと思われる。
屋敷に居た俺たちは部下たちを連れなんとか脱出を図ろうとしたが、どこも大量の兵が押し寄せてきており逃げることなんて出来ない。叔父が曹操のところに行く前に俺の家族を皆本家のほうに収集したのはこれを察知していたからだろう。

「鉄っ…岱。僕は足手纏いになるだけだ……」
「何言ってるんだ休っ。みんなで逃げるんだ」
馬鉄は右手に剣を握り左手で馬休の手を引き走る。引率している部下たちの数は次第に減っていく。
周りを囲って己らを守っていた壁は崩れてしまっていた。

「っ…こんな時兄貴がいたら…」
長子の馬超が居たらこんな雑魚兵たちなんて槍を一回振るうだけでみんな消し飛ばすだろう。
しかし自分たちにそんな力はない。
兄を越えることを目標にしていた馬鉄は非力な自分に苛立ち唇を噛み締めた。
そんな彼をみて馬岱は「余計なことは考えるな」と馬鉄の肩を叩く。


その直後であった。
男の人が女を守ったのだろう。覆いかぶさるように倒れている亡骸があった。
ただ問題は…

「っ…伯母さん。伯父さんっ……」
それが馬岱の両親であること。
馬岱の父は、馬休・馬鉄たちの父の兄。
そして馬岱の母は馬休・馬鉄たちの母の姉である。

早くに母をなくした馬鉄と馬休にとって馬岱の母は自分たちの母親も同然であった。


言葉を失う馬休。
馬鉄も思わず足を止めてしまう。

「鉄っ!!ちゃんと前を見ろっ」
言葉と同時に血飛沫が馬鉄の顔面へと降り注がれた。
「…………悪ぃ」
馬岱は更に襲ってきた数人を斬った。


自分の両親の死を顧みず馬岱は先へと進む。
「今は……生きることが親孝行だ。」
そう呟いた彼の言葉をきき馬鉄は剣を強く握り締めた。



何とか屋敷を脱出することに成功した。
しかし脱出の際、馬岱は相手の攻撃を全て防げず腕に傷を負ってしまった。
そこまで深くは無いが血が止め処なく流れている。
それを見て馬鉄は腰に巻いていた紐を馬岱の腕へと巻いて縛った。元はと言えば馬鉄が油断して負った傷である。

血に塗れた家宅を背に走る3人。
この先に馬が居る。それに乗って涼州に逃げると言う考えであったが馬休には不安があった。
馬術に長けているとわかっていながら果たして曹操は馬を生かしているだろうか。
逃がさないためには足を絶つのが一番早い。
となると攻め込む前に馬は全て処分している可能性は大いにある。




「……そんな」
馬屋に一匹も馬が居なく落胆する馬鉄と馬岱。
向かいからは血眼に走ってくる漢軍。

「俺たちが何をしたっていうんだよっ!!」
「…………それが今の漢なんだ。帝なんてただの傀儡でしかない」
もう逃げ場はない。


それならば潔く戦って死ぬまでだ。
馬岱と馬鉄はそう決意し、二人で顔を見合わせて敵の中に飛び込もうとした。
が、飛び込む直前で二人はその足を止める。

指笛が赤い空に響き渡った。
それは馬休が鳴らしたものだ。


(馬屋に馬がいない。それは最悪な状況ではないよ。)
寧ろ馬屋に倒れている方が最悪な状況であった。


「うっ……うわぁっ!!」
涼州が優秀なのは馬に乗る兵だけではない。
まずそれよりも馬自体がとても優秀なのだ。
戦に馬は必要不可欠。

だからこそ、我が物としてる可能性は決して低くは無かった。
となれば……



足は断たれたわけではない。







馬休の指笛に答えるように鳴き声をあげる一頭の馬。
乗っていた兵は振り落とされ漢軍を蹴り飛ばしながら走ってくる。


「………僕は涼州まで行ける自信はない。馬に乗って兄上にこのことを伝えるのは鉄か岱のどちらかだ」
「ならここは俺が抑えるからその隙に鉄が脱出しろ」
「馬鹿言うな。馬術は岱の方が上で、戦闘力は俺の方が上だっ!!」
考える時間などなかった。
しかしそんな中で馬鉄にしてはあまりにもまともな意見で馬休・馬岱は驚いた。
が、そんな時間もほんの一瞬である。

馬岱は駆け寄ってきた馬に飛び乗り手綱を掴む。


「一人逃げるぞっ!!」
「裏手に回れ!!」


最期の言葉も交わす時間などない。
馬を弓などで射られれば一貫の終わりだ。

今しなくてはならない事
それ以外のことは考えてはいけない。


生きてまた会おう…


そんな言葉が言えたらどんなに楽だろうか。
馬岱は感情を全て押し殺し涼州に向け馬を走らせた。



















―――――――――――



……い



たいっ!



「岱っ!」




「んっ……」

「起きろよ、何処で寝てるんだ?みんな探してたんだぞ」
「……あぁ鉄か。」

疲労がピークに達し少し休むつもりだったが随分眠っていたようだ。
だからこんな夢をみたんだ。

そう思いながら馬岱は重そうに瞼を開き寄り掛っていた木を支えにし立ち上がる。
仕事が色々と積み重なり、木陰で休息をとっていた馬岱。

夜になっても戻ってこない彼を心配して皆で彼を探していたのだ。


「兄貴が見つけたほうが良かったよな?」
「…………いいや。」

涼州に逃げてから一族の処刑の話をきいた。
それ以来あの時負った傷が毎夜痛んだ。

鉄に巻いてもらった布は幅が広いため半分に裂きそれを腕に巻きなおした。
あの日の事を忘れないためだと、従兄上には言ったが
本当は違う。


「………良かった。鉄が……生きていて」
「岱?」


でもあの日には戻れない。
だからこんな感情はもういらない。

「さて早く戻ろうか。鉄まで居なくなると休が心配するし」

あの時、馬に乗って涼州に向かったのが休だったら
そしたら今従兄上の隣に居るのは休で
鉄の隣に居るのは…








俺だっただろうか?







「鉄―――!!岱居た!??」
「居たぜー。こいつずっと此処で寝てたんだってよ。」
そう言って走っていく馬鉄を見て馬岱は笑った。
そして腕に巻いている紐を解く。

「岱、心配したんだぞ。疲れているのなら軍師殿に休みをもらえるよう俺から頼んでみるが」
走ってく馬鉄とすれ違いに馬超が馬岱のもとへと歩いてきた。

「………大丈夫ですよ従兄上。今は大事な時期なので忙しいのは皆同じです。わたしだけ休みを貰うわけにはいきません」
馬岱はにっこり笑い馬超の隣に立つ。
馬鉄とよく似た顔立ちの長兄。



だからこそ俺は…後ろを振り向かずに居られた。




「ん?今何か飛んでいかなかったか?」
「そうですか?気のせいですよ」

もう楔は必要ない。
感情に嘘をつくことなんて容易いことだ。

今までもやってきた。
だから……



今はただ“今”守るべきものを見ていればいい。






「……従兄上、大好きですよ」



例え、それが偽りの感情でも……







捏造キャラばっかりで本当にすみません。
実は馬岱は馬鉄を好きだというそんなストーリー。
本編の方には関係ありません。あっちは本気で従兄上Loveですので。
でも前半の話は本編の前のストーリーと繋がっております。
本当は前半の方は馬兄弟ストーリーの2話に組み込まれてた話だったのですがボツになって今更書いたという。時間があればそこのストーリーだけでも細かく書きたいなぁ…とか思っています。
馬岱のお母さんが馬兄弟の母の姉というのは嘘設定ですのでご注意を。


偽りの感情でも時が経てばそれが本心になるかもしれない。→馬岱の結論。

馬岱が馬鉄に起こされた時に押し倒しちゃうのもありかなぁとか思ったけどグダグダになりそうなので止めました(つд`)

誰か文章力プリーズっ


2009/05/22