俺の心のなかはセンチメンタルで溢れているのに世界は驚くほどに平淡で穏やかで緩やかに回っている。俺一人気にかけるほど地球は小さくないし、かといって俺を捨て行くほどには非情じゃない。丸い地球の心持ちはしっこにお情け程度に引っ掛かって、俺もしっかりと連鎖に組み込まれていた。だけどそれは同時に俺を惨めにさせて、ますます涙を誘うだけだった。さめざめと泣く俺以外にいないこの部屋の中で、助けてと呟く俺は大抵馬鹿だ。けれど、こんな俺を気にかけるあいつはもっともっと馬鹿だ。部屋の外から聞こえるなるべく押し殺された足音は、しかし俺の耳に拾われ、ゆるりと視線をつり上げたのだった。


「また泣いていたのかい」
「泣いて、ない」
「ああ、こんなに目を赤くして」
「、触んな」


広い部屋に、もう一人。現れた風介はいつもあやすように柔らかく髪を撫でる。しかし酷く優しい手付きは涙を引き出すだけで、既にすっからかんだと思った涙袋からはあとからどんどんとあふれでてくるのだった。悔しいほどに、俺は弱かった。ごしごしと拭えばまた暖かい掌が俺を慰めた。やめろって、いやだって、拒絶を繰り返しても離れることのないこの掌が、今は少しだけありがたかった。


「君はいつまで泣くんだい」
「関係、ないだろ」
「あるよ、私が悲しくなる」
「‥ざけんな」
「ほんとうのことさ」


きみがしんぱいなんだ 耳元で甘ったるい声で囁かれ、擽ったくて身体を捩った。距離をとろうと後ずさる俺の思考は、伸ばされた腕に身体ごと容易く絡めとられる。風介のちょっぴり冷たいけど誰よりも暖かいこの二対は簡単に距離を0にしてしまう。もう俺達はくっついていた。拒絶を繰り返した俺の腕ももうすっかりなりを潜めて、それどころかゆるゆると風介の背に歩を進めていた。結局俺はこのぬくもりを求めていたのかもしれない。ぽんぽんと一定のリズムで風介の手が背中を滑り、その度に俺は依存している自分に気づくのだった。



世界は少しだけ俺たちに優しい

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