→涼野風介 明日から、なんて考える時点で敗北していたのかもしれない。明日から本気をだすだなんて信用にかける言葉を自分に言い聞かせ続けた代償かもしれない。明日から行動するだなんて薄志弱行な自分を欺き続けた罰かもしれない。言い訳は掃いて捨てるほどに浮かんでくるというのに、君と俺と彼の関係について考えるとなると途端に思考を閉ざすのだ。まるで臆病者じゃないかと笑ったところで、誰かがその通りだとせせら笑うのだった。ああ、本当に。あと少しでも早く勇気を振り絞っていたら君の瞳に映るのは俺だった?なんて考えてももう後の祭りで。ここで大人しく退場するのが敗北者のセオリーだろうけど、そんなのは、ねえ? 「風介、赤っていうのはね」 (臆病者の反撃ってね) →南雲晴矢 赤は悲しみの色だ、と聞いたことがある。運命の赤い糸とよばれるくせに悲しみの赤ともよばれる、その色をうまい具合に認識することができなくなっていた。ただただその色は愛しい人の色で、自分にとっては穏やかな色で最たる色であったはずなのに。私にいらない知識を詰め込んだのは誰であったか。そんなどうでもいいことをふと思い出すくらい、彼の幸せそうな顔は私に毒だった。 「それは恋だよ、晴矢」 (こんにちは、さよなら) →基山ヒロト 謝らなければならないことがある。主に杏やマキに。あんだけ馬鹿にしていた色恋とやらを、俺は今満喫してしまっているらしい。らしい、というのは風介から言われたからなのだが、傍目から見てもわかるくらいに俺はヒロトを見ているらしい。その時点で弁解のしようはいくらとあったのだが、風介の物寂しい顔と欺きに痛む心の前に口をつぐむ以外の選択肢を得られなかったのだ。我が事ながら随分と汐らしくなったものだ。ああ、前の自分だったならば今このとき自然と名前を呼ぶことができたのに、意識とは常に俺の行動の邪魔をする。ヒロトを前にしてしどろもどろになりつつ、俺は漸く一言だけ放つことができるのだ。 「また明日な」 (なにもしらない) |