ガリッて音がした。じわりと左肩から生暖かい感覚が広がって同時にじくりじくりと熱がうまれていく。噛まれた、と思ったときには既に奴の牙は右肩に移動していて、そのまま皮膚を突き破ったところでようやく声がでた。

「い、たい」
「あ、ごめんなさい鬼道さん」

しっかりと右肩にも噛み付いてから顔を上げた佐久間の口元は予想以上に赤く染まっていて、ちょっと心配になった。「大丈夫ですよ」という佐久間の顔は穏やかだ。口元を赤く染めながらいえる台詞じゃないだろうに。ポーカーフェイスと謳われる俺の些細な変化ですら伝わるくらいにはこいつと一緒にいるはずなのに、俺はこいつのことがよく分からなかった。
じくりじくり。熱いんだか痛いんだか不思議な感覚を甘受していれば佐久間の指がゆっくりと左肩の傷口をなぞった。びくりと反射する俺の身体を愛しそうに眺めるその瞳からは皮肉にも愛以外の一切の感情が読み取れない。これの3分の1でもフィールドにいるときに反映させられればいいのに。プレー中のこいつは聊か反応がわかりやすすぎる。

「ね、鬼道さん」
「なんだ」
「これで、俺のものですよね」

花開くように破顔する佐久間は純真無垢な子供よりも危うい。そこに俺でもわかるただ一つの感情が揺らめいたのを見て、またかと呟くのだった。












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