捏造×ピアスの話




















ぬるっとしていて、やわらかくて、あったかくて、だいじなもの。それに触れて、軽くなぞってみた。生々しい感触にぞわりと毛が逆立った気がした。
普段から奇抜なことを言うやつだと思っていたが、まさかここまでだとは。ため息をついてみてもむなしく響くだけで早々にあきらめた。やつは、本気だ。飄々としているがやつほど有限実行するものを俺は知らない。


「何してんの」


腰にスウェットのズボンを引っ掛けて、いつの間にか入り口に立っていた不動が行儀悪く足で扉を閉めた。しまった見られた、と思っても時すでに遅く。ばっちり見ていた不動は予想外にもなにも言わず、緩慢な動きで俺の隣に腰を下ろし、なにかが入った袋を投げて寄越した。こんなに近くにいるんだから普通に渡せばいいものを、どこまでも粗暴な奴だ。だからといって取り落としたりなんてしないが。


「これは何だ」
「氷。まさか冷やさないでやんの?痛いよ?」
「いや、耳朶の時は冷やすと聞いたが…この場合も必要なのか?」
「へえ、そーゆーコト疎そうに見えて案外知ってるんだな。もしかしてやろうとしたことあり?」
「冗談言うな。自分からやろうなんて思うはずがない」
「俺から言われたらやるんだ?」
「…」
「鬼道くんも人に流されることってあるんだな。ま、どうでもいいけど」


不動の指が耳朶に触れて思わず体を揺らしてしまった。先ほどまで氷を持ってたであろう指先はいつも以上にひんやりとしていて、なんだか気持ちがいい。自分でも気づかないうちに緊張していたらしい、うっすらと汗ばんでいる身体に冷えた不動の指が馴染んだころ、「耳にする?」と不動が聞いてきた。その右手にはいつのまにか白い長方形が収まっていて、あああれがピアッサーか、などと他人事のように考えていた。


「耳と、どっちが痛い?」
「そりゃ耳より痛いに決まってるだろ」
「じゃあ、いい」
「悪趣味」


どの口が言うのだか。薄く開かれた口から覗く、うごめく赤に乗る銀色が鈍く反射した。どうやら少し興奮してるらしい、ぞくぞくとしたなんともいえない刺激が背筋をなでる。恍惚、と言うのだろうか。この感覚は嫌いではない。
不動はひとつ息をついた後、ローテーブルの上にピアッサーをおき氷の入った袋を指差した。何も言わないが冷やせということだろう。大人しく従い口のなかに塊を放り込むと同時に、ペンたてから細長い棒をひっつかむと、器用に回して手のひらにおさめた。


「なんだ、それ」
「ニードル。見たことあんだろ?」
「それはわかるが」
「これであけんの。いいから鬼道チャンは冷やしてろよ」


話は終わりだとさらに氷を詰め込まれる。氷と共に痺れるように感覚をとかされていく器官はやがて何も感じなくなるんだろう。そうなった時が始まりの合図だ。それは、もう近い。


「後悔、すんなよ」


そんなものするものか。という言葉は、氷に融かして飲み込んだ。不動は俺に、流されて、とか言うが、本当に嫌であれば全力で抵抗するという知らないのだろうか。そして、これが少なからず俺の意思が含まれた行為だということに、こいつは自力で気がつく日は来るのだろうか。いや来ないだろう。俺の口から伝えるかどうかは、不動の手に握られたそれがこの舌を貫いたそのあとにでも、検討してみよう。今は来るべきその瞬間を待ち望んで、厳かに舌を差し出すのだった。


∇リメイキング・ライフ
(何かが変わるかな、なんて)




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消毒はしっかりしましょう
舌はスタジオであけたほうが安心です


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