10年後のヒロトと円堂さん
捏造たっぷり寧ろ捏造しかない























100円均一で売ってるような簡素な茶封筒に、お世辞にも綺麗といえない字で書かれた住所と「基山ヒロト様へ」。差出人の名前はない。一見して不審な手紙。だけど不思議な既視感に包まれた俺は自然と封を切っていた。そこには茶封筒とセットだっただろう茶色の便箋に乗せられたこれまた乱れた字。きっとこれが完成された彼の字なんだろう。身体は成長しても、ここは成長しなかったらしい。苦笑しつつ開いた便箋には、挨拶も吹っ飛ばした一文。「日本に帰ってきた」と、「あの場所で待つ」。そして少し空白の後の英数字が混ざった短い記号の羅列。慣れ親しんだ日本語よりも綺麗に書かれたそれが、俺の知らない彼を物語っていた。一番下に書かれた「円堂守」という字を見つけてから、弾かれたように家を飛び出した。小さく書かれた羅列とベッドに置かれた携帯電話をそのままに。













「こんばんは」

久々の再会にいろいろと言葉を用意してたはずだったが、すべてをすっ飛ばして出てきた言葉がそれだった。陽が落ちてバーミリオンが支配する鉄塔広場に、あのころよりも成長した体躯をベンチに預けて、彼はいた。その後ろ髪はだいぶ伸びていた。特徴的だった二つのハネはひとつふたつと増えていて、丸かった襟足は乱雑にあしを伸ばしている。染色もされていない髪はとても柔らかそうだ。自然と伸ばされる腕は逡巡の後におろされる。もう触れ方を忘れていた。

「ヒロト!」

振り向いた彼は相変わらず太陽のような笑顔を浮かべていて、思わず目を眇めてしまった。首をかしげる彼に「いや、まぶしくてね」と告げる。うそではない。主語を挿げ替えているけど。

「ヒロト成長したなー」
「そりゃあ、ね。円堂くんこそ成長したじゃないか」
「む、俺よりも大きいやつに言われるといやみにしか聞こえないな」
「あはは、純粋な気持ちだったんだけど。ごめんね?」
「俺だってなあもう10センチは成長する予定だったんだぞ」
「そんな、円堂くんはそれくらいがちょうどいいよ」

どういう意味だ!と憤慨する円堂くんをごめんごめんとなだめる。ああ、懐かしい。脳裏に浮かぶのはあの夏の日。俺がイナズマジャパンFWの基山ヒロトで、彼がイナズマジャパンGKの円堂守だったころのこと。一回りも二周りも小さい彼の笑顔が、声が、身体が、重なってはぶれていく。ぴたりとはまらないまま揺れる影がぐるぐると思考を埋めていく。眩暈がした。

「ヒロト?」
「、あ、…ごめん」
「大丈夫か?やっぱり急だったよな、無理させたならごめん」
「そんなことないよ、手紙、嬉しかった」
「そっか、それならよかった」
「サッカー、続けるの?」
「おう、もちろん」
「もうプレイはできないのに、」
「選手としてはもう活躍できないけど、俺は俺なりにサッカーにかかわっていくよ。俺みたいなやつを出さないためにもな」
「そっか」
「ん」
「もう、君とプレーすることもないんだね」
「…ごめん」
「謝って欲しくていってるわけじゃないんだ。でも、寂しいなって」
「……」
「もう、円堂くん、君と」

続く言葉を口に出すことができなかった。俯いたことで沈黙がおりる。言ってしまったら終わりな気がした。きっと彼のことだから、これからも変わらずに彼自身であり続けて、臆病な俺だけが取り残されてしまう。魅力的で愛される彼を引き止めることなんてできるわけがない。そう思うことすら高慢に思えた。

せめて、最後は笑顔で。だから意を決して顔をあげたその鼻先に拳を突きつけられたときは反応ができなかった。目を丸くする俺に構わず彼は拳を開く。近すぎて焦点が合わないが、どうやら紙のようだ。微かに揺らし受けとることを促され、いわれるがままに受け取る。折り畳まれた紙を開くと、茶封筒に乗っていた字と同じものが躍っている。

「これ」
「俺の住所。さすがにもう一人暮らししてるからさ」
「それは、わかるけど…どうして」
「今度は、ヒロトからな」
「え?」

返事、待ってる!告げる彼の笑顔は変わらずに太陽のままだったけど、頬も耳もほんのりと赤く染まっている。染めるはず彼が染められている。これはきっと夕日のせいなんかじゃない。そう胸をはれることが堪らなく誇らしかった。

薄く色付く彼の顔と、あの時の彼がかちりとはまっていく。目線の差は限りなく0に戻っていた。伸びる手を、今度こそ彼に。

強く握り返される掌と抱き寄せたい衝動をぶら下げて、俺はあの夏の日のことを思い出していた。



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