「よォ、」
「よう、この馬鹿野郎」
「久しぶりだってのにつれねーなぁ」
「当たり前だ馬鹿野郎、何してんだ」
「何って、ねぇ。全部見てたくせに」
「当たり前だ馬鹿野郎、じゃなくてなあ」
「馬鹿馬鹿いうなっつのおれだって傷つく」
「馬鹿以外なんて言えばいいんだよ馬鹿エース。……ほら、」

久しぶりに再会を果たした兄弟は非常に虫の居所が悪いらしい。昔と何一つ変わらない姿のまま、優しい表情をうつしていた顔を厳しくしかめておれを責めるように見ている。実際責めているんだろうけど、見上げられているからか迫力がない。
昔は温厚なこの兄弟が怒るのと小さな弟が泣くのが苦手だったはずなのに、不思議と懐かしさが勝って怖くもなんともなかった。いまだに小さな弟が泣くのは、苦手なままだけど。

「ん」

びしりと指差された先にいるのは大事で大切な愛しい弟。おれよりも一回り小さい身体には真っ白な包帯が隙間なく巻かれていて、小さな身体がさらに小さく見える。

その小さな身体に相応しくないだけの傷を負って、あいつはおれのもとにきた。脱出不可能と謳う監獄を抜けて、大切なものを犠牲にして、蹲るおれのもとへ。その手をとることを躊躇ったおれをひったくるようにして連れて、空を舞った。あれだけおれを苦しめていた枷は簡単に役目を放棄して、なんだか拍子抜けした。昔はへまをする弟を諫めて尻拭いをするのがおれの役目だったんだけど、いつのまに逆転したのやら。兄としての不甲斐なさと罪悪感と隠しきれない喜びとともに、おれは自由になった。はずだった。

愛しい愛しい唯一の人。家族がたくさんできて心酔するオヤジもできたけれど、血も何もかも越えてまで共に在りたいと思えるのは、やはり弟だけだった。

だから、誇りを投げ出すことも、躊躇わなかった。
その笑顔に翳りを落とすのが、何よりも怖かった。

けれども。

開く傷口も構わず、がむしゃらに拳を突き出す。真っ白な包帯はみるみるうちに赤く色づいていくのに、おれはどうしようもできなかった。弟が泣いているのに、慰めることもできない。蹲って抱える、その頭を撫でることもできない。明日の命もわからぬ己を最愛の人にしてもらうのは気が引けたから、せめて兄貴であろうとしたのに、兄貴であることもできなかった。

「ルフィ、泣いてる」
「うん」
「泣き虫は嫌いだって、いってなかったっけっか」
「ああ、嫌いだ」
「じゃあ、そういってこいよ。嫌いだって、弱虫はぶん殴るぞって、なあ馬鹿エース」
「ああ」
「馬鹿エース…ルフィを頼むって、いったのに」
「ああ、ごめんな」

おれはまだおまえとあいたくなかったよ
えらく低い位置から聞こえるその声は、大きいハットに遮られくぐもっている。おれは優しいから、そういうことにしてやる。だから、お願いだから上を向いてくれるな。

「大丈夫、あいつは強いから」

誰よりも強いから、きっと乗り越えられる。
情けなく声が震えているのは誰よりもよくわかった。湿り気を帯びた空気が流れる。慟哭に感化された瞳を閉じて、おれは最後のお別れを告げた。






(さようならいとしいひと)


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