うだるような暑さ、と形容してみてもますます暑くなるだけで、うまい言葉が見つからなかった。暑いもんは暑い。水分を含んだ風がお情け程度に肌を滑るもんだから余計に。まるで蒸し風呂のようだ。蒸し風呂に服を着て入るやつなんていないだろうそうだろう、思い立ったが吉日、もはやおれを覆う布切れに用はなかった。

「エースのろしゅつきょー」

かろうじて残った理性が最後の砦を残し、パンツ一枚スキンフリーでご機嫌なまま冷たい床に寝そべれば、なんともまあだるそうな声が降ってくる。いつもの元気はどこへやら、本気で参ってるらしい我が弟がぺたりとおれの脇に座り込む。見事な女座りだ、さすが軟体生物。

「ルーフィーくーんお兄さまに向かって露出狂ってなんですか」
「パンツ一丁で床に寝そべってる人をろしゅつきょーとよばずなんてよぶんだ?」
「違いますーお兄さまは一足早くバカンスしてるんですーむしろパンツだって邪魔」
「エースはみちんしてる」
「え、嘘」

思わず左手で確認してみれば頭上から降ってくるげらげらとした笑い声。ちなみにはみちんはしてませんでした。いやそうじゃなくて。
ひとしきり笑って満足したルフィが再びあぢーとこぼし隣に寝転がる。一気に狭くなった床面積を名残惜しみつつ投げ出されたルフィを手繰り寄せる。力の抜けた身体は重いがそれくらいで根をあげるほどやわな鍛え方をしていない。いや鍛えるというよりはこいつの世話をしているうちに鍛えられたというか。いやほんと兄貴冥利につきるってもんで。

「お前も脱いじまえ」
「うおっ」

身体を起こしルフィのノースリーブを引っ張りハーフパンツを引き下ろし一枚ずつ順序よく脱がしていく。特に抵抗なく脱がされなおかつ身体を預けてくるルフィによろしくない想像をしないっていったら嘘になるが、あいにくな暑さにやられたルフィを組み敷いたらきっと向こう一週間は無視されるに違いない。普段は気持ちいいことに寛容なルフィでも、気乗りしないままに行為に及ぶとブリザードも裸足で逃げ出すほど冷たくなるのだ。
向こう一週間の極寒寂しい生活と、今の暑さ。比べるまでもなく後者がましだ。何が悲しくて自分から極寒の地に赴くか。まあ何回かはめをはずしたことはあるけど。どっちにせよ仏の顔も三度まで、前科二犯のおれにはもう後がなかった。

「あぢぃ」
「うるせえ余計暑くなっから言うな」
「んじゃさみぃ」
「おーさみぃさみぃ、まじさみぃアイスくいてぇ」
「アイス!くいてぇーエース買ってきて」
「お兄さまに命令するんじゃありませんルフィ買ってこい」
「エースが言い出したんだろ、おれガリガリくんがいい」
「おっいいねぇ」

むぅ、とふくらませたほっぺたと突きだされた唇は見事な黄金比を披露している。器用なやつだと笑いながらつつくと空気が抜けるなんともいえない音がする。そのままもにもにと弾力性抜群なほっぺたを揉むと暑いとすぐに抗議があがった。それでも自分から擦り寄って離れない弟を心底愛しいと思う。ああもうこいつはおれの葛藤を無視しやがって!

「…もう暑いんだから、いまさらちょっと暑くなっても変わりねぇよなァ?」

言外に煽ってきたんだから責任とれとくっつければ紅潮した頬にさらに紅がのる。上乗せされたほっぺたはおろか、顔全体が真っ赤だ。あーだとかうーだとか不明瞭な言葉を発する唇にキスを落とせば「あとでガリガリくんだかんな、」と一睨みの後腕を回される。「2本な!」と普段では拳骨対象な言葉も耳元で言われれば了承するしかない。はいはいと苦笑しつつ、うっすらと汗が伝う首筋に顔を埋めた。



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