+10 「不動」 アイデンティティだと頑なに固持し続けた奇抜な髪型と存在を浮かせる装飾品は高校に入って捨てられたらしい。安っぽいアイデンティティだと嘲笑った俺にあいつは怒ることもなく、静かに、ただ静かに、そうだなと笑った。あれからいくらか月日がたちいよいよ過去を眩む歳になった今、あの頃の俺達を頻りに思い出すようになった。泥まみれになりながら駆け抜けた、輝かしい栄光を。ぶつかり競いあい、反発の末に笑いあった青春を。それをいつのまにかてばなしていた俺達が。 「鬼道ちゃん、いいのかよ」 「なにがだ」 「これからどこいくかわかってんの?」 「雷門中に行くんだろう」 「だから、それがどういうことだか」 続けようと用意された言葉は紅に彩られた瞳に奪われてしまった。すっかり気勢をそがれた俺は口を閉じるしかない。こうなったときの鬼道ちゃんというのは驚くほどに頑固だ。たとえ結果が自分を柔く鋭く傷つけようとも、その意思を曲げることはない。どこまでもストイックで純粋なこの姿勢だけは、10年という人を変わらせるに足る時間の中で変わらずにありつづけた。 「さぁ、円堂に会いに行こう」 変わらなくてもいい、って言った俺は間違っていたのだろうか。でもきっと、どんな道を模索したとしても結果は1つしかなくて、俺はまた同じ言葉を紡ぐんだろう。ちょっぴりの期待と受け流せない後悔を抱いて。 なあキャプテンよぉ、俺はお前が羨ましくてたまらない。いつまでも鬼道の前方を走り続ける、お前が。 |