「すてきなよるだな」 唇からこぼれる音を再び拾うことはできるのだろうか。不確実なものは嫌いだ。確証がないと行動ができない。だからこそ俺は慎重に選別した。決して身の丈を越えた発言をしないように、果たせぬ誓いをたてぬように。 「あしたはあめかもしれない」 しかし物事にはイレギュラーというものが存在する。たとえどんなに心の奥深くに根付いてる習慣でも覆す瞬間は訪れるのだ。するりと口をつく言葉に、一つだけ瞬いた。 「あめになればサッカーはできないな」 彼は太陽のような人だった。まわりはいつも光で溢れ、力強く照らしていた。暖かい日差しが彼だとするのならば、俺は、それを受ける一介の人間だったのか。肩を並べて笑いあって、ボールを追いかけたあの日は、もう遠い。 「なあ」 冷たい墓標に手をそえても、彼が答えてくれるはずもない。だって彼は太陽なのだから。彼は暖かな日差しなのだから。彼は、彼は、彼は。 なあ、一之瀬。 -- 待つ人、土門 |