お願いって言えば晴矢はなんだって聞いてくれる。甘ったれって言われるかもしれないけれど、晴矢は俺に甘かったんだもん。たぶんきっとそれは絶対、俺への罪悪感から。俺の知ってる世界は8畳間の切り取られた空間で、登場人物は風介とヒロトと治とリュウジと晴矢と少しの脇役だけだったから。ぽんこつの身体に産んで挙句の果てには棄てた顔も知らない両親を最初こそ恨んだけど、今はちょっと感謝してる。相変わらず俺の世界は狭いままだけど、皆にあえたから。そして白く淡い認識の中でとびきり色彩を放つ晴矢にこいをできたから。

俺は君の腕の中でいきたいんだ。だからお願いって言ったらやっぱり晴矢は抱きしめてくれた。君のこの細い腕では抱えきれないものを遺していくのには心残りがあるけれど、きっと皆が支えてくれるだろうから、いいよね、って、ちょっと思った。別に嫉妬じゃないよ。ただ寂しいから。これからも晴矢と一緒に歩いていける皆が羨ましいっておもったから。あ、ごめん、やっぱ嫉妬かもしれない。でも最後の我侭だから許してよ。ああ、なんだかだんだん眠くなってきた。「目を開けろ」って?それは無理なお願いだよ晴矢。そういや晴矢は全然我侭言わなかったよね。多分これがはじめての我侭?叶えられなくてごめんね。だって身体から瞼だけ切り離されたように落ちてくるんだ。でも、晴矢の癖っ毛が頬をくすぐるから、目を覚ましてしまった。もう、俺、眠いのに。多分晴矢がなんか言ってるんだけどもう俺には聞こえなかった。癖っ毛が揺れる。俺これしってるよ。チューリップって言う花に似てるんでしょ?風介がよく言ってた。晴矢に言うと怒るから内緒だよ、って。晴矢に内緒を作るのはちょっと躊躇ったけど、それで風介の記憶に残るならって思っちゃった。一番だいすきなのは晴矢だけど、風介もヒロトも治もリュウジもみんなみんなだいすきだから、許してね。あ、これも我侭になるのかな?今度こそ、最後だから。視界がぼやけて、ついに赤色しか見えなくなった。チューリップが眠気の邪魔をしてきたけどどんどんと瞼は下がる。南雲晴矢の頭はチューリップだ。真っ赤で、可愛い。きっとそれを言ったら晴矢は怒るから、怒った顔よりも笑った顔の方が好きな俺はその言葉を大事に胸にしまって墓場までの短い距離を歩くのだった。


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天国にも同じ花は咲くのですか
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