今年は現パロ
 
 パチリと目が覚めた。軽く首を動かして近くにある時計を確認する。まだ夜明け前だ。12月に入ってから急激に冷え込み始めた冬は、室温も容赦なく下げている。ぶるりと身体を震わせ、布団を掛け直す。どうしようか、二度寝をするには微妙な時間で起きるには早すぎる。横を向いて傍らにいる男――ディミトリの顔を見る。仄暗い室内でも端正な顔が見える。大学生になってから髪を伸ばすようになり邪魔ではないのかと思うが、顔に陰を落とす様がかっこいいのでこれはこれで良いなと密かに思っている。顔にかかった髪を軽く除けるとディミトリは身動ぎをした。起こしてしまっただろうかと焦ったがそれだけだった。

 起こさないようにベッドから降りて、その辺に落ちていた毛布を羽織る。静かにベランダに出ると、冬特有の冷たさを孕んだ空気が身体にまとわりついた。静かな住宅街と遠くに見えるビルの更に奥の空に月と金星が並んでいるのが見えた。吐く息は白く、胸の内に溜まった熱いものが抜けていくような感覚だ。
 手すりに寄りかかってため息をつく。こうして一人寒い中にいると物憂げになってくる。どこか苦しくて、寂しくて、こんなに幸せな日々を送って良いのかと、まるで知らない過去が私を苛むかのような――

「ルミナ」

 のしりと背後から抱きしめられる。いつの間にそばに近寄ったのだろう、全く気づかなかった。突然のことに跳ねる心臓を落ち着かせようと深呼吸をする。

「おはようディミトリ、起こした?」
「ん…お前の姿が見えなくて焦ったぞ」
「ごめんね」

 抱きしめられてることもあって私は暖かいが、ディミトリは着の身着のままだ。このままだといけないなと思い、腕を軽く叩くが動く様子がない。どうしたんだろう。

「おーい、ディミトリ?ディミトリさーん」
「んん…」
「このままじゃ風邪ひく、部屋戻ってもう一眠りしよう」

 ディミトリの誕生日である今日は、大学もバイトも休みで、夕方に幼馴染たちと食事に出掛けるくらいだ。普段は朝しっかり起きるけれど、たまには二度寝をしてもいいだろう。ひっついたまま離れないディミトリをつけたままえっちらおっちらと歩くとついてくる。
 ベッドにつけば離れたものの、そのまま手を掴まれてら離れない。珍しいな、と思いながら共に布団の中に入る。眠れるだろうか、と思いつつそういえばまだ言ってなかった。

「ディミトリ、誕生日おめでとう」
「…ルミナ」
「うん?」
「来年も、共にいてくれるか」

 ディミトリが先のことを望むのは珍しいと目を見張る。彼が望みを口にしてくれるのが嬉しくて、切なくなった。

「うん…君が望むなら来年も、その来年も」
「ずっと…ずっと共にいてくれ」
「うん…」

 たとえディミトリにとって眠りに入る前の霧散した思考でも構わなかった。君がそれを望むなら、いつまでも共にいたい。私はそうありたいと、先ほどまで考えていた苦しさが嘘のように晴れていく。すでに夢の中に入り始めている彼の身体に抱きつき、布団を被る。もう一眠りして、起きたらまた言おう、何度だって。
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