結婚前


 強く吹いた乾風が身体を撫でていく。星辰の節に入ってから一層冷たさが身に沁みるように感じる。降り積もった雪のせいもあるだろうか。木々の葉も大部分が落ち、寒々とした印象を与える。
 フォドラの未来を懸けた戦争から3ヶ月近くほどが経った。未だ戦争の爪痕が深々と残るフォドラにとって厳しい冬になるだろう。大きな争乱に巻き込まれた地域には復興を急いでいるが、それでも手の回りきらない場所もある。対応に次ぐ対応、終わりの見えない仕事量に、2時間だけと外に逃げてきた。

「さむ…」

 王城の中庭のベンチに腰を下ろす。冷えた空気が煮詰まった頭によく効く。息抜きとはいえここにずっといたら風邪を引きそうだ。10分ほどしたら城内に戻ろう。

「サボりか?ルミナ」
「人聞きの悪い、効率の良い仕事のための休憩と言ってほしいな」

 ぼーっとしていたらディミトリがやってきた。城内で会うことは多々あれど、中庭で会うのは珍しい。

「ディミトリこそどうしたの?てっきり仕事中だと思ってたけど」
「俺もそのつもりだったんだが、ギルベルトがな…」
 
 話を聞くに、ここ数日ずっと執務室に篭りきりのディミトリをみかねたらしい。無理やり休憩させないとずっと仕事をしてしまうからだ。戦争が終わっても戦後処理の仕事は一向に減らない。ディミトリだけの責任ではないが、一国の王の重責は計り知れない。と、そこまで考えてはたと気づく。今日は20日ではないだろうか。

「今日ディミトリの誕生日だ」
「ん?…ああ、そうか。もうそんな日か」

 本来なら国を挙げて祝いたいところだが、いかんせん戦後の貧乏財政では泣く泣く見送るしかない。前々からそう決めていたのでお祝いムードも薄いまま当日を迎えてしまった。

「今日の夕食は豪華になるらしいよ」
「そうなのか?皆が喜ぶな」
「…あのさぁ」
「どうした?」

 ディミトリが食事の話題に食いつくことはない。誰それが喜ぶ、など他人事のことばかりだ。それに対してドゥドゥーが気を揉んでいることに気がついているのだろうか。ドゥドゥーだけじゃない、近しい人なら誰しもは一度首を傾げたと思う。…何も言ってくれないんだもんな。

「いや、なんでもない。それよりもプレゼントとか全然用意できてないな」
「そんな気にすることじゃないだろう。気持ちだけで十分だよ」
「そうもいかないよ、私の気が済まない。」

 どうするかと頭を捻らせる。そういえばこの前べレス殿からカミツレの茶葉をいただいたな。ディミトリが好んでいたと言っていたので、下手なものにはならないはずだ。

「まだ休憩の時間ある?」
「ああ、まだ大丈夫だ」
「じゃあ部屋来てよ。べレス殿からいただいたカミツレの茶葉があるんだ。プレゼントがわりというほどじゃないけどお茶を淹れよう」
「お前の淹れてくれたお茶を飲めるだけで十分なプレゼントだよ、ありがとう」
「…君さぁ、もっと欲張りになってもいいんだよ」

 もっと欲張ってくれたら、そのためになんでもしてあげられるのに、と口に出せない願望がある。

 私の王、どうかこの先を憂うことなく健やかに生きてほしい。それだけでいいのだ。

 
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