フォドラの北側に位置するファーガスでも、今年の冬はここ数年でもかなり低い。身体を冷やさぬようにと何度も釘を刺されたので、暖かい上着を何枚か羽織る。
 今日はディミトリの誕生日だ。すでに城内は祝宴の準備で慌ただしい。手伝おうかと申し出たが、ギルベルト殿に止められた。

 私室の暖炉の薪が燃える音を聞きながら、書類を確認していく。そろそろ正式に政務補佐官を辞退することになるだろう。あれだけさっさと別の人に渡したかった業務も、愛着が湧いていることに笑ってしまう。だが、曲がりなりにも王の伴侶に収まったからには、政権からは遠のくべきだ。

「ルミナ、いるか?」
「ディミトリ」

 隣の執務室からディミトリが顔を出した。何かあっただろうかと立ちあがろうとすると制された。

「どうかした?」
「いや、夜まで時間があるからお茶でもどうかと思ってな。忙しいか?」
「全然大丈夫。お茶にしよう」

 お茶を淹れるために立ちあがろうとしたが、今日は俺が淹れると言い、手で制された。

「きみ一人で大丈夫?」
「実は先生に教えてもらったんだ、ドゥドゥーにもお墨付きをもらったから安心してくれ」

 味はよっぽど酷くなければ飲めるが、それよりも茶器を割らないかどうかが心配になってしまう。まぁ、練習したのなら期待して待ってみるか。



「待たせた」
「ありがとう、いただきます」

 口の中に広がる芳醇な香りと旨味に、美味しいと呟くとディミトリはホッとしたように笑った。暖かい飲み物のおかげで熱が身体中に広がるような感じがする。どれだけ練習したのだろう。未だ完治とまではいかないディミトリの味覚で、美味しいと思わせるほどのものになるには、それなりの時間が必要だったはずだ。その成果を私に披露してくれたという事実で胸が暖かくなる。

「ディミトリの仕事は?」
「ありがたいことにギルベルトたちが気を効かせてくれてな、今年もゆっくりさせてもらえているよ」
「ならよかった。何か欲しいものはある?」
「いや…特に思いつかないな。お前や臣下たちが健やかに過ごしてくれれば十分だよ」
「相変わらず欲の無い男だなきみは」

 とはいえ準備していないわけもなく、今年は新しい防寒着でも送ろうかと考えている。だが毎年のプレゼント候補がだんだん減っていくのを考えると、何かしらでいいのでこれが欲しい、という言葉を待ち望んでいるわけだが。


「ディミトリ」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」

 毎年欠かすことのない祝いの言葉に、顔を綻ばせて笑ってくれるのを見るのが好きだ。どうか、また一年健やかに生きてほしい。暗闇に心を奪われないように、私と共に、どうか。
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